研究課題/領域番号 |
25370561
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
松藤 薫子 日本獣医生命科学大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90334557)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 叙述的所有表現 / 生成文法理論 / 第一言語獲得 |
研究概要 |
本研究では、松藤(2012)で明らかにした英語と日本語の叙述的所有表現にみられる共通点と相違点を踏まえ、生成文法理論に基づき、叙述的所有表現のどの部分が普遍文法で規定される特徴であるのか、どの部分が言語経験を通して獲得される、個別言語に特有な特徴であるのかを考察した。その結果、以下の4点を明らかにした。 第1に、所有者を表す名詞句が先、所有物を表す名詞が後という順序がみられる。普遍文法に基本的語順を決定するパラメータがあると提案されている。子どもは早期に自分の母語の言語経験によりパラメータ値を固定し、所有者・所有物を含む文にも当てはめる。 第2に、英語、日本語などそれぞれの言語が持つ叙述的所有表現の形式に関して言語間変異がみられる。その変異を説明するために、少なくとも2つのアプローチがある。1つは、普遍文法にその変異を捉える2種類のパラメータがあり(Stassen 2009)、その1つが、出来事2つを2つの節で表す文に関わるものであるため、子どもは比較的遅い時期に言語経験に基づきパラメータ値を固定する。もう1つのアプローチは、普遍文法に、ある獲得段階から次の獲得段階の文法への移行をとらえる一般法則があり、その最終結果として生じる文法が言語間変異と考えるものである(梶田1977,1997)。 第3に、所有を表す動詞の項構造は、子どもが言語資料に接しながら、個々の動詞の語彙情報を獲得し、生得的な連結規則を用いて、項と文の統語構造を結びつける。所有文の意味は、生得的な言語獲得原理・意味の合成の原則と文化・経験を通して獲得する。 第4に、叙述的所有表現に表れる名詞は格や後置詞を取る。普遍文法に格認可システムがあると仮定されている(Chomsky 1995)。英語児は、格に関しては何も学習する必要はない。日本語児は、格標識を表す語や後置詞に属する語を学習しなければならない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費の助成を受け、研究実施計画どおりに進めることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究成果から、状態を表す叙述的所有表現が一般的な動作を表す叙述表現より獲得が遅い、日本語の叙述的所有表現が英語の叙述的所有表現より獲得が遅いと推測される。言語獲得から得られる資料が、ある分析案の妥当性に対して証拠になる可能性があり、また、普遍文法の内部構造に基本・派生の概念を組み入れた方が妥当かどうかを検証する資料になる。上述の推測や可能性を検討するために、今後、平成26年度の研究実施計画をふまえ、叙述的所有表現の獲得解明へ向けて基礎的研究を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
洋書納品が遅れたため。 言語獲得関連図書、英語学関連図書、言語学関連図書は、研究資料として使用する。その目的は、広範囲の言語の所有表現に関する資料を収集する、言語理論の理解を深める、所有表現の言語間変異と獲得に関する成果と課題の確認を行う。ノートPCは、所有表現の獲得を調べる調査や分析に使用する。資料整理の補助員への謝金は、所有表現に関する文献リスト作成や調査資料の整理などの経費である。旅費は、国内の学会に参加し、情報交換や情報収集を行う。複写費、文具、コンピュータソフトと消耗品などは研究支援費として使用する。
|