研究実績の概要 |
平成29年度では、叙述的所有表現(以下、所有文)の獲得メカニズムの解明を試みた。 平成25年度から28年度では、叙述的所有表現に関して、大人の言語知識でどの部分が普遍的で、どの部分が言語経験を通して獲得されるのかを明らかにした。主に英語児と日本語児の自然発話資料の分析結果に基づき、英語児と日本語児の叙述的所有表現の獲得過程の解明を試みた。その後、これまでの研究成果の不十分な点を整理し、横断的・実験的な研究方法を採用して、日本語の大人による所有文の自然さに関する調査とそれに基づく子どもの所有文の獲得に関する調査を行った。 平成29年度では、子どもの調査結果を分析し以下の4点を明らかにした。1つは、典型的所有を表す「ある」文の所有者につく助詞「には」は5歳9ヶ月ごろに使うことができる。2つめは、人が物を手に持ったり身に着けたりしていないが、物を所有している場面で、典型的所有を表す「持っている」文を5歳1ヶ月ごろに発話することができる。3つめは、「ある」文と「持っている」文が両方使える場面では、「持っている」文のほうが4、5歳の子どもは使いやすい。「所有者には所有物がある」が使われた文脈では、所有者につく格助詞は「には」より「は」や格助詞の省略のほうが、4、5歳の子どもは使いやすいということが分かった。 さらに、上記の子どもの発話の誘出調査と松藤(2015)の自然発話資料調査の両方の分析結果に基づき、日本語の所有文の獲得過程の特徴を明らかにした。その獲得過程には(i)所有の概念獲得、(ii) 「子どもは形と意味の結びつきにおいて、1対1の結びつきを好む」(Slobin 1973, 1985)という言語獲得原理、 (iii) 獲得過程の中間段階の文法の特徴が大人の文法の特徴に影響を与えるという普遍文法の動的な内部構成(Kajita 1977, 1997)が関与していることを議論した。
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