研究課題/領域番号 |
25370562
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
椎名 美智 法政大学, 文学部, 教授 (20153405)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 歴史語用論 / コーパス / 社会言語学 / 初期近代英語 / 呼びかけ語 |
研究概要 |
今年度は10月12日に東洋大学の「ひとことばフォーラム」にて「歴史語用論研究、初期近代英語期法廷言語の特徴」という演題で、10月20日に山口大学での日本英文学会中国四国支部の研究発表大会の「英語史におけるポライトネス研究の可能性」というシンポジウムにて初期近代英語期の喜劇と裁判記録におけるポライトネスについて研究発表をした。演劇テクストと比較して裁判記録での呼びかけ語の使用頻度は非常に低いが、その差の原因は、コミュニケーションの目的の違いに起因することが判明。日常生活での会話を反映している演劇テクストでは、情報交換だけでなく人間関係の構築維持のための会話の場面が多くみられるが、裁判は目的指向性が高いため、会話調整機能、つまり証言者の特定、話順の調整明示、発話の開始、終了合図以外の語用論的機能は不要だからだ。また、対話者に友好関係、連帯感は元々ないことに加えフォーマルな場面なので、ポライトネスへの配慮があまり必要ない。呼びかけ語とスピーチアクトの関連で興味深いデータは、チャールズ一世の裁判記録である。王が発言の要望をしては却下される場面の対話が特に興味深い。呼びかけ語の生起状況だけに注目すると、裁判長が国王に対してmy Lordよりネガティヴポライトネス度の低いSirを使用、また身分差のある対話者が相互にSirを使用しているのである。法廷での裁判長と被告という役割の差によって身分の差が相殺されていると考えられる。スピーチアクトに関しては、国王が比較的強い発話内力をもつ直接的スピーチアクトを使って発言させてもらえるよう要望しているのに対し、裁判官側は発話内力を弱めるモダリティの要素を使って命令、禁止をしていることがわかった。執筆した論文には「初期近代英語期の法廷言語の特徴「呼びかけ語」に焦点を当てて」があり、ひつじ書房より近刊予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究発表の機会、論文執筆、書評執筆など、歴史言語学研究の面では、非常に充実した1年をすごすことができた。とくに、英文学会のシンポジウムでは、他の時代のテクストを、自分と類似した視点で分析している研究者たちと同じテーマで研究発表をすることによって非常に有意義な意見交換をすることができた。自分のこれまでの分析方法、視点の相対化をすることができ、今後の研究の方向性を考えるヒントも得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
歴史語用論的にスピーチアクトをみるためには、呼びかけ語だけでなくモダリティにも注目して、動詞句を見て行く必要があることがわかった。今後はモダリティについて、過去の研究を概観してからコーパスデータにアノテーションとして加える可能性があるかどうか検討していきたい。また、どのスピーチアクトに注目するのか、範囲を限定しないと、すべての動詞句を見る必要がでてきて、研究が収斂していかないのではないかという懸念もでてきた。よって、今後はモダリティ研究とスピーチアクトの種類と分類、焦点の絞り込みの二点に注目して今度の研究を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は国内での学会に講師として招待されることが短期間に重なり、準備と出張のために多忙を極め、計画していた海外での学会のすべてには参加できなかったため、旅費のために計上していた予算が未使用のまま年度末になった。また、論文執筆、書評執筆、次年度の学会の企画の草案などといった、研究室内での活動が多く、調査旅費を使う機会がなかった。執筆した論文についても、予定が遅れて出版されていないので、予算計上できなかったため、次年度使用額が生じた。 国内外の学会で、できるだけ多くの機会に研究発表を行い、さまざまな研究者との意見交換を行う予定である。また、論文の出版や編著書についても、作業のスピードを速めて、成果が早く印刷、出版されるように努力する。今後学会で発表する論文については、さらに研究を練って、論文の形で発表できるように、執筆体制を整えていく計画である。
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