研究概要 |
本研究は、従来あまり研究されてこなかった英語の無強勢音節の構造を明らかにし、強勢音節の構造、音節量、ソノリティー等についての研究と総合して、英語における総合的な音節構造のモデルを提示することを目的とする。今年度主に次の2点に取り組んだ。 (1) 無強勢音節の核の種類:一般米語(General American)の語末無強勢開音節には、quotaに現れるシュワーのほかに [i](city)、[ou](follow)、[ju](value)が現れるが、この3つはともに音節核がシュワーと同じく空のスロットで、[i, ou] は音節末尾にそれぞれ /i, u/ が入った構造を持ち、[ju] は音節初頭に /i/、音節末尾に /u/ が入った構造を持つと結論づけた。強弱弱格の語末では [i] は現れるが [ou, ju] は現れない。この現象は同じ位置に舌頂性子音は現れるが非舌頂性子音は現れないのと並行的で、/i, u/ がそれぞれ舌頂性および非舌頂性を持つためであると考えられる。 (2) 音節モデルと記述のレベル:音節モデルを考える際、複数の言語事実が相反するモデルを要求する場合がある。例えば一般米語においてnear, tour, square, north, startの母音は第2要素に [r] を持つ2重母音として他の2重母音や長母音と同じく2モーラの長さを持つと感じられるが、後二者がfork, carpのように非舌頂性子音の後続を許すのに対して、前三者はこれを許さない。従って、音素配列のレベルにおいては、前三者は2モーラ母音プラス /r/ の3モーラ、後二者は1モーラ母音プラス /r/ の2モーラと扱わなければならない。同様のずれは、クラスター分析において後部要素にシュワーを持つと分析されるtrap, thought, lotの各母音にも生じる。
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今後の研究の推進方策 |
主に次の2点を考え、英語の音節の総合的なモデルの構築を目指す。 (1) 音節末尾子音の数と種類:無強勢音節の末尾子音は、音節外の要素であると考えられる舌頂性子音を除けば原則として1つである。しかし、damask, mollusk, monarch /rk/, triumph /mf/ など、無強勢音節の末尾に音節外要素と見なすことができない2子音連続が現れる例外が存在する。一見したところこれらの例外的な語においては無強勢音節の初頭子音が共鳴性を持つかもしくは存在しないなどというような制限があると思われるが、これが事実であるならば、無強勢音節においては音節量がある一定の価以下でなければならず、これらの例のように音節末尾に2子音連続がある場合、その重さを初頭子音の軽さで相殺することによって無強勢であることが許されるという仕組みが考えられる。 (2) 外来語の音素配列:Minsk, Irkutskのように本来の英語の音素配列からは外れているものの音挿入や音省略なしに発音可能な外来語がある一方、そうでない外来語もある。前者と後者を分けているものが何であるのかを明らかにする必要がある。
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