研究課題/領域番号 |
25370568
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
毛利 史生 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40341490)
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研究分担者 |
Robert Cvitkovic 東海大学, 外国語教育センター, 講師 (00412627)
鄭 磊 福岡大学, 留学生別科, 講師 (40614475)
Howe S・M 福岡大学, 人文学部, 准教授 (90461491)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 定性 / 冠詞習得 / 比較級構文 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究成果として、(1)日本語を母語とする英語学習者を対象にした定性解釈調査、(2)日本語「も」の意味論・統語論研究、(3)日本語、中国語における節タイプの比較級構文研究の三つを挙げる。 (1)の調査であるが、日本語話者の冠詞習得の遅延を「母国語の負の転移」現象という前提で研究を進めている。従来の研究(ionin et al 2004, 2008)では、普遍的DP仮説の下、特定性/定性のパラメータ設定がない言語を母語とする学習者に冠詞習得の遅延が生じることが報告されている。が、今回のPartitive構文の実験調査結果では、特定性/定性のパラメータ設定に疑問を呈した。詳細は、『福岡大学人文論業』第48巻第2号で報告。 (2)の「も」の研究では、不定+類別詞(何人)と結びつく際に生じる解釈を通して「も」の意味的属性に関する理論研究を行った。詳細はThe Proceedings of PLC40で報告しているが、この研究の最終目的は、日英語の名詞の(不)定解釈の意味的・統語的導出プロセスの違いをあぶりだすための予備的研究である。 (3)の比較級構文の研究であるが、GLOW in Asia 2017において、日本語と中国語には程度項の抽出(Degree abstraction)が存在せず、一見、節構造に見える構造はすべて句構造であることを主張した。言い換えれば、日本語には節タイプの比較級構文が存在しないことになる。 (2)、(3)の研究発表は本研究の予備研究である。特に(3)の比較級構文に関しては、日本語や中国語の文法構造に節タイプの比較級構文が存在しないことを提案した。英語との派生プロセスは異なっており、両言語の英語学習にとっては、負の転移が予想される文法項目である。現在、第二言語としての英語学習者を対象とした調査に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本語や中国語の文法体系と英語の文法体系の違いを理論的に説明することに従事する一方で、統計分析の基本的な研究手法の学習にも時間を割いてきた。統計分析に関しては、研究分担者や学外の講師のレクチャーを通して多くの学習・計画に時間を割いてきたが、実験実施後にミスが見つかり、やり直しを余儀なく強いられるケースがあった。そのために研究はやや遅れている。集計、数値化といった研究手法に思いのほか苦戦しているのが現状。一方、文法現象に対する理論研究は順調に進んでいると思われる。今後は、集計・数値化の精度を上げ、より多幅広くデータを収集していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
日本語母国語話者の定性解釈に関しては、実際に調査を行い、習得の遅延があることは確認できたが、従来の特定性/定性のパラメタ―再設定(もしくは未設定)による遅延という主張には疑問を呈した。しかし、実験データがまだ乏しく、再度、スケールを増した実験を行う必要がある。 さらに定性研究に関連して、「も」を対象にした理論研究は日本語の名詞の外延を研究する上で鍵になると思い、ここまで時間を割いてきた。つまり「も」が不定語(「何」「誰」)と結びつく場合と異なり、普通名詞と結びつく場合は追加解釈(Additivity)の解釈となる。普通名詞の外延を種レベルの個体と仮定すれば、追加解釈を上手く導出できるという主張を提示する。この主張の延長は、日本語裸名詞の(不)定解釈は関連コンテキストにおける種の実例というDayal(2012)の主張に繋がり、結果、定性解釈を機能範疇DPのパラメータ設定に還元する分析に異を唱える。最終的には、第二言語習得における定性解釈習得の遅延は、機能範疇のパラメータ再設定ではなく、母国語の名詞の外延に起因すると結論付ける。 最後に比較級構文であるが、日本語及び中国語母語話者に英語比較級構文習得に遅延が見られるか調査を行っていく。ここまでの研究で、日本語と中国語には節タイプの比較級構文が存在しないことを主張した。仮に、日本語や中国語を母国語とする英語学習者に節タイプの比較級構文習得に遅延が見られるのなら、母国語による負の移転の可能性を示唆できる。また同時に、本研究の理論的主張の正当性を裏付けていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカボストンの学会に応募した研究発表が採択されず、研究責任者及び分担者の旅費を支出がなかった。また、研究分担者のStephen Howe氏のイギリスでの調査も実施されず、その分の旅費の支出も計上されす、次年度に持ち越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の集大成として、研究成果を国内外で発表していく。特に統計分析に遅れがあるため、講師を招いてのセミナーの開催、さらには、データ収集のための人件費・謝金の支出が増えると思われる。
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