本研究では、英語で研究活動を行う留学生に必要な日本語能力を把握し、そのための教育について検討してきた。また、留学生と日本人学生に対して英語で行う異文化間コミュニケーション教育の内容・方法も提案した。これまでの研究では、留学生が日本人学生や周囲の留学生と研究仲間として関係を構築するために必要な日本語能力を明らかにし、その教育内容・方法を示した。最終年度となる27年度は、研究活動の中心であるゼミで必要な日本語能力を把握するために、会話分析の手法を用いて日本人教員が日本人学生と日本語で、留学生と英語で行う質疑応答を「共話」の観点から比較分析した。その結果、日本人教員と日本人学生は共話的に質疑応答を進め、徐々にその内容を深めていたが、英語の質疑応答では、共話的に進めようとする日本人教員に対し、留学生は自分の意見を述べるためのターンが日本人学生に比べ長いことがわかった。そのため、ターン・テーキングがうまく進められず、互いの意見が十分に理解されたとは言えない質疑応答になっていた。このことから、英語で研究活動を行う留学生に対する日本語教育では、初級段階から日本語の談話能力を養成すること、また日本人の教員や学生に対しては言語により談話の進め方に相違があることを日本語教育から発信することの必要性が示唆された。 異文化間コミュニケーション教育については、英語で研究活動を行う専攻で開講した講義における学生間のコミュニケーションや授業の分析を行った。その結果、講義の使用言語として英語に加え、留学生が学んでいる生活に根ざした日本語を導入することにより、日常生活の情報や経験を共有し、その意味づけをするコミュニケーションが促進されることがわかった。そして、そうした活動が専攻という共同体の形成につながることが示唆された。最後に、これらの成果を引き出すための活動デザインを提案した。
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