研究課題/領域番号 |
25370590
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中東 靖恵 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (90314658)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 南米日系人 / 日系移民社会 / 移民言語 / パラグアイ / ブラジル / 言語変容 / 言語維持 / 国際情報交換 |
研究概要 |
南米日系移民社会における日本語のあり方と日系子弟に対する日本語教育は、1990年代以降激化した「デカセギ」による日本への還流現象により生じた「トランスナショナルな移動」という南米日系人の新たな居住スタイルにより、新しい局面を迎えていると言える。南米と日本を行き交う南米日系人の居住スタイルが、移民言語としての日本語の維持・変容にどのように関わり影響を与えているのかについて、主に日系パラグアイ人に焦点を当て、言語変容のあり様とともに、その背後にある歴史的・社会的要因を探ることが本研究の目的である。 パラグアイの日系社会は主に戦後移住者を中心に形成されており、移住の歴史は比較的新しく、日系人口もそれほど多くはない小さなコミュニティである。パラグアイ日系社会に関する先行研究があまりない状況の中、その実態をより深く理解し特徴づけるためには、戦前移住者が中心を占め移住の歴史が長く、南米日系人の大半を占めるブラジル日系社会における研究との比較・対照を行っていくことが有効であると考える。 以上のような観点から、本年度の研究実績として、Urban Language Seminar 11(2013年8月18日、広島市にて開催)で行った研究発表「ブラジル・パラグアイの広島県人家族における方言アクセントの継承と変容」では、広島県出身移民家族でありながら、ブラジルとパラグアイに暮らす話者とで言語変容・言語維持の様相が異なる実態を示すとともに、その背後にある要因について論じ、研究論文「ブラジル語と日本語―日系人のことば」(『日本語学』33-1、2014年、pp.86-95)では、ブラジル日系社会において移民言語としての日本語が、ホスト社会の言語であるブラジル語(=ポルトガル語)と接触し変容を余儀なくされる中、日本語教育のあり方をめぐる日系移民らの葛藤と、徐々に変貌する日本語教育のあり方について述べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究実施計画は、①パラグアイヘの日本人の集団移住に関する歴史的経緯に関する資料、②パラグアイ日系社会に関して記した種々の統計資料、③パラグアイ日系社会における日本語教育に関する資料について、主に文献資料を中心に収集を行うことと、日系パラグアイ人の移民言語としての日本語の維持・変容の実態とそれに関わる言語環境を明らかにするために、①日系パラグアイ人のトランスナショナルな移動の実態、②日系パラグアイ人の言語生活の実態について、主にフィールド調査により資料収集を行うことであった。 文献資料収集に関しては、日本政府主導のもとに行われた海外移民政策に関する外務省・拓務省等による政府刊行物・報告書、民間の移民会社などによる移住者支援事業に関する書籍・報告書等、日本で刊行された資料については比較的入手が可能であったものの、パラグアイ日本人会が編纂した各地日本人移民史や、日系社会に関する種々の統計資料、邦字新聞、雑誌、文芸誌などのエスニック・メディアや、各地日本語学校がまとめた日本語教育に関する報告書や日本語学校の児童・生徒らが書いた作文集など、パラグアイで発行された資料については入手が困難であり、十分に調査ができなかった。また、フィールド調査に関しては、日系パラグアイ人の人口がそれほど多くなく、日本在住のパラグアイ人においては散住傾向にあるため、うまく資料収集を行うことができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、本年度の研究実施計画に掲げた目標を達成できるよう、文献調査・フィールド調査ともに、引き続き資料収集を進めていくが、その際には、資料収集に関する協力体制を強化する必要があると考える。ブラジルに関しては、文献資料の電子化・アーカイブ化が進んでおり、Web上で閲覧可能な資料が増えてきたが、パラグアイに関しては資料の電子化がほとんど進んでおらず、情報も少ない。資料の入手方法に関しては、国立国会図書館、外務省外交資料館、国際協力機構(JICA)、海外移住資料館など移住・移民関係資料を保有する施設だけでなく、(社)日本パラグアイ協会、(社)ラテン・アメリカ協会、(公財)海外日系人協会など、パラグアイや南米を中心とする海外移住事業に深く携わる関係団体の協力も仰いでいく必要がある。また、フィールド調査に関しては、情報提供者の協力を上記団体に積極的に働きかけていくつもりである。
|