本年度は、インタビュー調査を継続して行い、新たなストーリーを作成した。前年度から作成されたライフストーリーを集めてストーリー集の形で報告書を作成した。対象となった留学生は、学部留学生、短期留学生、編入生などである。このストーリー集が第一の成果である。このストーリー集の教育実践への応用は、今後の課題であるが、試行的に日本人大学生向けあるいは留学生向けの教育実践が行われた。 また、科研のメンバーは、これらのライフストーリーをもとに、学部留学生の将来像形成についての知見を深めた。その研究成果は書籍、国内外の学会での口頭発表、各種学術雑誌における論文の形で発表された。これらの成果をまとめると、学部留学生は、大学生活の中で、「日本語を話す」新たな自己を構築しなければならないという課題に直面していること、葛藤や矛盾に満ちた日本における体験の中で、「日本語を話す自己」を構築するためには日本語におけるなんらかの「居場所」が必要であること、モデルの存在が将来像の形成にも大きく関わっていることが明らかになった。本研究の教育実践への応用(提言)としては、キャリア教育や日本語教育で「正しい日本語」が使えることを目指すのではなく、留学生たちの「日本語を話す自己」の確立に寄与できる教育の必要性、成長する青年として留学生をとらえる必要性が指摘された。ライフストーリーを活用した留学生向けの授業実践が、彼らにモデルを提供するのか、また「日本語を話す自己」にどのように寄与できるのか、今後の研究発展が期待される。 また、本研究のライフストーリーは、研究者が研究対象者を「理解する」という方法をとっている。現象学やナラティブセラピーに理論的背景をもつこの方法を、今後より精緻化する課題が浮かび上がった。
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