本研究の目的は、大学教育において留学生と日本人学生の対話能力を育成するために、日本語教育や国語教育の枠を超えて、両者がともに参加し体験を通して学び合う協同学習による体系的な対話能力育成カリキュラムの開発である。この目的を達成するために、本研究は大きく以下の3つの段階にしたがって調査研究を進めた。1) 日本人学生と留学生とが参加する対話を収録し彼らの対話能力を分析するとともに、両者の評価の観点の共通点と相違点を明らかにし、新たに対話の評価指標を策定する。2) 同じ参加者による対話と、1)で策定した評価指標による他者評価を踏まえて、研究代表者のこれまでのカリキュラムを基盤に新しいカリキュラムを作成する。3) 2)のカリキュラムを試行的に実践し、その成果を踏まえて内容の検証と改善を行う。 平成25年度に日本人学生と留学生が共に参加する対話の収録と、収録した対話に対する自己・他者による印象評定を行った。平成26年度は印象評定結果に対する因子分析を行ったところ、日本人学生と韓国出身の留学生、中国出身と台湾出身の留学生との間に、評価の観点に共通点が見られたが、両グループの間には、有意差が見られるほどの違いは認められなかった。このことは、評定者の母語や文化が、対話の評価の観点に対して影響を与えるとまでは言えないことを示唆する。したがって、日本人学生と留学生が、それぞれの出身国や文化の違いを意識することなく、各個人が持つ多様な評価スキーマの異同に気づき、その違いに起因する問題や困難を乗り越えるプロセスを学べるカリキュラムが必要であるとの結論に至り、そのようなプロセスを盛り込んだカリキュラムの試作を平成28年度に行った。
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