本研究は、自発発話において自由に意思疎通ができるレベルに達していない初級英語学習者を主なターゲットとしたものであった。初級学習者の口頭英語運用能力を伸ばすための練習は、与えられたトピックについての議論などでは効率が悪く、ある程度強制的に英文を処理し、それを短時間のうちに口から発する訓練が必要である。そのため、本研究では、シャドーイングと誘出模倣を口頭運用能力訓練として使用し、これらの自発発話への影響を調査した。これらの練習法は、大教室での英語授業でも実施可能で、英語で言いたいことをどのように表現すべきかだけでなく、「何を話すべきか」わからない、日本人理系大学生に多いタイプの学習者にも対応可能である。 2015年度は最終年度となるため、データの収集を前期に行い、後期はその分析を行った。コンピュータ理工学専攻の1年生37名が実験に参加した。前期の最初と最後に、反直接型のスピーキングテスト(コンピュータスクリーンに表示された設問に対し、45秒以内で回答する)を事前・事後テストとして実施した。週に1度、15分から20分程度で、シャドーイングと誘出模倣を応用した口頭運用能力トレーニングを計10回実施し、最終的に、事前事後テストを両方受験したのは、33名となった。引き出した発話を、複雑さ、正確さ、流暢さを表す指標各2種類(合計6指標)において、比較した。 結果として、流暢性は有意に向上したが、正確さには変化が見られなかった。複雑さの指標として、文長と構文的複雑さを調査したが、変化があったのは文長だけであった。以上より、口頭運用能力により、早く、多く話せるようになることが示されたが、文法的なコントロールや、複文を短時間の間に作成する能力には有意な改善は見られなかった。本研究は、スピーキングの練習は必ずしもコミュニカティブである必要がないことを示唆するものである。
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