研究実績の概要 |
本研究の目的は、米国在住経験の有無が、弱母音の音質の到達度にどのように影響するかを観測することであった。具体的には、日本人帰国生と一般大学生被験者グループを用意し、母音の中でも日本人にとって生成が難しい母音の1つである弱母音について、母語話者の母音の音質への到達度を観測した。さらに、母音生成とTOEICにより測定される英語能力との関係も分析した。 本研究の被験者として、4グループ(米語母語話者1グループと日本人英語学習者3グループ)を用意した。米語母語話者は14名(AMR:男女各7名)であった。日本人英語学習者は米国在住経験のある帰国生と一般大学生で、公式TOEICテストを受験した。国内生につき、TOEICスコアにより上級学習者と初級学習者に分類した。 生成実験を実施し、音声分析ソフトPraatを用い、ストレスのない母音のフォルマント値(F1, F2)とF0値を計測した。F0値を単位としたF1/F0値とF2/F0値を計測し、正規化を行った。母語話者と比べ、初級学習者のF1/F0値は高く、上級学習者のF1/F0値もやや高い傾向が観測された。帰国生の場合、F1/F0値もF2/F0値も母語話者と同じ傾向が観測された。 帰国生の弱母音は、母語話者の音質への到達度が高いことが観測された。初級学習者は母語話者に比べ、分析対象の弱母音の調音位置が低いことが観察された。上級学習者においては、語末に比べ語中の弱母音のF1/F0値の分散は小さく、単語内の位置の影響が観察された。上級学習者は、ストレスを担う母音の持続時間制御の習得到達度は高かったが、弱母音の生成はより困難であることが本研究で示された。
|