話題卓越型言語である日本語を母語とする成人英語学習者の主語述語構造の習得困難性が指摘されている。この困難性は,話題卓越型言語と主語卓越型言語の事態の捉え方の相違が関係していると考えられる。本研究は,「ナル」型把握が優勢な日本語の母語話者に「スル」型把握の仕方を明示的に指導することが有効ではないかと仮定し,研究参加に同意した大学生を対象に実験を行った。参加者には,指導前に絵本のストーリーを見せ,その内容に関連した事柄で英語で意見を述べてもらい,それを事前発話データとした。その後,参加者を「コミュニカティブ群」「コミュニカティブ捉え方指導群」「ノンコミュニカティブ捉え方指導群」の3群に分けた。コミュニカティブ群には,その参加者が事前発話で言いたかった内容を表す例文を用いて口頭発話するという指導を行った。コミュニカティブ捉え方指導群にも同様に参加者が言いたかった内容を表す例文を口頭発話させたが,それに英語の「スル」型把握への意識を高めることも加えた。ノンコミュニカティブ捉え方指導群には,「スル」型把握への意識高揚を行ったが,参加者の意図とは関係のない例文を用いて行われた。その後,事後発話データをとって繰り返しのある2元配置分散分析にかけたところ,コミュニカティブ捉え方指導群とコミュニカティブ群は,得点の有意な伸びが確認されたが,ノンコミュニカティブ捉え方指導群には有意な伸びが確認されなかった。さらに,コミュニカティブ捉え方指導群の方がコミュニカティブ群よりも事後発話で主語述語構造がより多く出現していることと,両群とも指導で用いた例文に少しずつ修正を加えながら発話していることが明らかになった。このことから,英語指導では,自己関連性のある内容の事例の体験を高頻度で行うことが最重要であり,その中で英語的な捉え方への意識を高めることが有効であるということが示唆される。
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