グローバル化とマルチメディア化の進む現代において、異文化間コミュニケーションの在り方が多様化しており、そうした状況における翻訳・通訳の社会的役割も変化しており、単に言語の変換のみという捉え方では実情に合わなくなっている。そうした状況を受けて、機能主義的翻訳研究を基盤に据えて、言語チャネルと非言語チャネルの両者が含まれるジャンルの比較分析を行った。具体的には、挿絵入りの書籍・映画・マンガ・絵本・雑誌といったジャンルを独英日の原文と翻訳を用いた三言語で比較して、言語と非言語のインタラクションを質的・量的の両側面から調査・考察した。その結果、A言語からB言語への言語間の変換のみならず、A言語がB非言語へと対応する事例や、逆にA非言語からB言語へと対応するケースが確認できた。こうした成果の積み重ねにより翻訳教育への応用が期待されよう。特に画像や写真、図など非言語要素が取扱説明書などの日常的な産物にも溢れており、多くの翻訳シーンでそうした要素をいかに考慮に入れるかが重要となる。 特に最終年度には、これまでの研究成果を、台湾での国際シンポジウムの招待講演で報告し意見交換を行った。さらに本研究の特色として挙げていた機能主義的翻訳研究の、最も重要なドイツ語文献を本研究の過程で精読してきたが、副産物として解説付きの日本語訳を完成させることができた。その成果を『スコポス理論とテクストタイプ別翻訳理論』と題して2018年度中に出版できる運びとなった(研究成果公開促進費に採択)。これは本研究で分析対象としたジャンルの翻訳研究では欠かせない理論的基盤であり、日本でのこの種の研究の進展に貢献できると思われる。また、2016年秋に行った中国での国際学会での招待講演の際に交流した天津大学教員からの申し出で、拙著『翻訳行為と異文化間コミュニケーション』が中国語訳され、2018年1月に刊行された。
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