平成27年度は最終年度として、論文執筆や学会発表に注力し、招待講演にもつながることとなった。具体的には、海外での学会発表4回、招待講演2回、論文2本という結果になった。これまでの国内外における情報収集、資料採集、国内・海外の研究者との交流や意見交換、情報提供により、これまでと同様に密度の濃い研究成果となったと考える。 また当初の研究目的に沿い、出来る限りの裁判通訳データ収集(これには、自らが通訳人となってデータ収集したものも含む)を実施、その中から文化、文化差が言語理解もしくは誤解につながる可能性のあったもの、文化の仲介者としての通訳人の役割における現状、周囲の参与者からの理解などについて、さまざまな事象を発見、検討することが出来た。 しかし、犯罪は定期的に起こるものでもなく、常態化するものでもない。また、研究者本人がすべての事案に立ち会うことは不可能であり、録音・録画ができない日本の現状では情報収集にも限界があることを改めて痛感した。また限られた時間の海外研究でも、これは同様であることを実感した。 日本において外国人が被疑者となった場合の裁判の公正さを保ち、通訳人の身分や立場を保証する制度はまだ設定されていない。外国語が使用され、通訳人が絶対に必要となる裁判の公正さについての規定もなければ、通訳人の認証制度や身分、倫理や言語運用能力をはじめとする教育・研修制度も全く存在しない。 このような現状を改善するためにも、今後さらなる研究が必要と考えているため、文化の仲介者としての通訳人の役割についてさらに深く検討を続けると同時に、それを成立させるような制度設計も必要であると考えることから、今後は通訳人の役割を踏まえた制度設計検討の研究へとつなげていく予定である。
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