研究課題/領域番号 |
25370748
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
胡 潔 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (30313399)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 訪婚 / 摩梭人 / 母系社会 / 双系社会 / 父系社会 / 居住規制 / 婚姻語彙 / 国際情報交換(中国) |
研究実績の概要 |
この研究は、文化交流史の視点から古代日本の双系的基層社会と外来の父系制原理との関係性に着目し、単系(父系)原理が双系社会の日本に移入された後に現われた制度上の父系的偏向と居住上の母方的偏向の並存のメカニズムを究明することを目標としている。 二年目にあたる本年度は、当初の計画通り、主に次の作業を行った。(1)論文執筆。前年度に行った、親族名称、婚姻語彙、財産相続、地位継承、相互扶助などの諸項目に関する検討分析の結果に基づいて論文を執筆した。その内容の一部はすでに国際学会での口頭発表や学術論文として公表された。今年度も引き続き公表する予定である。(2)雲南での実地調査。中国西南部の少数民族の婚姻習俗に関する文献調査を行った前年度に続き、本年度は、訪婚、妻方居住、夫方居住の混在が見られる納西族摩梭人社会の実地調査を行った。まず中国少数民族研究の重要な拠点の一つである雲南大学で、娶嫁婚儀式婚と訪婚の併存について専門家と意見交換を行い、有益な助言と情報を得られた。天候不良のため摩梭人集住の濾沽湖へ行くことは中止したが、麗江在住の摩梭人に聞き取り調査を行った。この調査を通じて、摩梭人の婚姻習俗・家族構成、婚姻語彙に関するいくつかの情報を得られ、特に観光業や出稼ぎなどの経済活動によって、母系大家族の形骸化が進行していること、伝統的な訪婚も変貌していることを確認できた。(3)「不落夫家」の習俗に関する予備調査。この習俗はかつて古代日本の通い婚との類似性が指摘され、本研究が注目している父系化と居住形態の変化を考える上では重要だと考える。比較検討を行うために、まず日本、中国の図書館を利用して文献調査を行った。まだはっきり結論を出す段階ではないので、次年度も引き続き検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究はほぼ当初の研究計画に沿って行った。初年度に行う予定の史料整理・分析の作業は、史料の量が膨大であったため、一部分の作業が本年度にずれ込んだ。そのため本年度の作業にも多少遅れが生じたものの、論文執筆と中国西南部の諸族の調査は研究実施計画に沿って進展していることから、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画に沿って、以下の研究を推進する。 ①納西族摩梭人に関する調査内容の分析を引き続き行う。特に摩梭人の系譜観念と「家屋」に対する意識を中心に分析し、その結果を纏める。 ②不落夫家の習俗に関する調査。具体的には、歌垣慣行との関係、婚儀内容、夫家へ移行する時期と契機を中心に調査する。 ③タイ語系社会に関する予備調査を行う。社会的、歴史的、父系社会との交渉状況などの違いに留意しながら、本研究の問題意識に基づいて、婚姻居住、財産分配、祖先系譜に関して調査を行う。専門家の助言を得ながら、タイ王国の公的研究機関を利用して、関係資料の収集を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、一つは当初予定した摩梭人集住の濾沽湖の実地調査を実行できなかったことと、もう一つは摩梭人に対する聞き取り調査のための通訳雇用費を計上したが、実際調査対象者と漢語で交流できたため、通訳雇用費を使用しなかったことによるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、繰越分と27年分として請求した研究費を合わせて、主として実地調査、人件費、資料代に使用する。
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