研究課題/領域番号 |
25370750
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
外川 昌彦 広島大学, 国際協力研究科, 准教授 (70325207)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 岡倉天心 / タゴール / インド / ヴィヴェーカーナンダ / アジア主義 / 文化交流 / ベンガル / ヒンドぅー教 |
研究概要 |
本年度は、研究計画の第一年目として、関連地域での現地調査、海外を含めた関連学会や研究会での報告、及び、研究成果の中間報告的な意味での、英語論文を含めた各種学術紙や関連学術図書などへの論文の投稿を行った。 具体的には、日本国内では、岡倉天心の行跡に関わる奈良や京都などの関西地方での現地調査と東京の国立国会図書館などでの文献資料の収集を行った。また、1902年に天心に同行してインドに渡った堀至徳の縁戚にあたる堀忠良氏へのインタヴュー、岡倉天心と堀至徳研究で知られる皇学館大学の池田久代教授との研究打ち合わせ、日本ヴェーダーンタ協会の会長であるスワーミー・メドゥーサーナンダ師へのインタヴューなどを行った。 また、インドでの岡倉天心の事績をたどるために、インド・マハーラーシュトラ州のアジャンター・エローラーでの現地調査、及び、及びカルカッタの西ベンガル州政府公文書館での現地資料の収集を行った。 さらに、本年度は、内外の学会や研究会で11回の研究報告を行い、特にインド・シャンティニケトンの国立タゴール国際大学では、詩人タゴールと岡倉天心との歴史的な交流の経緯について新たな資料に基づいた再検討の可能性についての研究報告を行い、現地のタゴール研究者との意見交換を行った。 研究論文の報告については、本年度は、1冊の共編著と2冊の共著、英文を含む1本の査読付き論文と5本の論文を刊行した。その中では、とくに岩波書店の雑誌『文学』では、その特集「この100年の文学」への寄稿依頼を受け、「タゴールとノーベル賞受賞の100年」と題する論考を掲載した。本稿では、とくにヨーロッパ世界と当時のインド世界との関係性の中でのタゴールによるオリエンタリズム的表象に対する姿勢と、グローバル化する現代世界における、その新たな示唆の可能性について検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画書の研究目的においては、とくに近年のタゴール研究の進展を踏まえることで、英領インドにおける岡倉天心とタゴールとの交流の具体的な経緯を検証し、その相互のアジア認識に関わる思想的な影響関係を明らかにすることが、課題の第一の目的として掲げられていた。この点については、とくに本年度は、これまで参照されることのなかった堀至徳日記などの岡倉天心関連の日本での資料と、ベンガル語で伝承されているタゴールの書簡集や関連資料の対比的な検証を通して、これまで明らかにされてこなかったタゴールと天心との密接な交流の経緯を明らかにした。 とくに、タゴールが自らの理想を実践するために1901年に創設したシャンティニニケトンのブラフマ・チャルジョ・アシュラムと名付けられた学園において、その創設間もない4か月後に岡倉天心が、浄土真宗の僧侶であった織田得能を伴って来訪し、二泊三日に渡って滞在した経緯を、タゴール家に保存されていた家計台帳の史料に基づいて実証的に明らかにした。これによって、これまでのタゴールの伝記的研究、及び岡倉天心の伝記的研究には見られなかった両者のより深い思想的な交流の可能性を明らかにし、当時のインド知識人と岡倉天心との、思想的な影響関係の広がりを検証したことは、本年度の大きな成果となっている。 以上のように、本計画の第一の目的については、当初の計画以上の進展がみられるといえ、引き続き第二、第三の目的の達成に向けて、研究を推進する計画となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本計画の第二の目的として、近年、顕著な進展が見られるヴィヴェーカーナンダの伝記的研究や、関連する周辺史料の検証を通して、岡倉天心とヴィヴェーカーナンダとの交流の経緯を検証し、あわせて相互の関係性を通した同時代のアジア認識に関わる思想的な影響関係を明らかにすることが、本計画では課題として掲げられている。この点については、とくにヴィヴェーカーナンダの新たに編纂された書簡集やシスター・ニヴェディタ関連資料の参照、その他のヴィヴェーカーナンダ関連の新たな伝記的研究の進展に基づいた両者の関係性の検証を、本年度の課題の一つとして推進する計画である。 とくに、岡倉天心が当時のイギリス・インド植民地政庁に対して行った、ブッダ・ガヤなどのインドの歴史的遺跡についての調査や保全に関する働きかけや、また、日本との交流を促進するために試みられた方策については、インド国立公文書館や西ベンガル州の公文書館などに保存されている英領期の行政資料の検証を通して、さらに明らかにする可能性があると考えられ、引き続きこの課題についても、推進してゆく計画である。 また、これまでの天心研究やインド側の研究では十分には解明されてこなかった、インド側の史料研究と日本側の伝記的研究の統合的な分析によって、これまで空白となっていた岡倉天心のインド知識人との密接な交流や、そのインド体験を媒介として形成された近代日本におけるアジア認識の意義とその可能性の検証などについては、本計画の第三の目的として、引き続き推進される計画である。 また、現在までの達成度で述べたタゴールと天心との関係についても、京都で天心が開催を準備していた東洋宗教会議の計画など、さらに未見の資料が国立タゴール国際大学のタゴール研究所などには保存されていることが予想され、引き続き研究の目的の一部として、調査を進めてゆく計画である。
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