平成27年度は、過去の国内・海外調査の成果を踏まえ、基本文献や先行研究の読み込み、及び分析を行い、年度末に研究代表者の勤務する職場(博物館)の展示会(特別展、及びクローズアップ展示)において、研究成果の一部を展示するという形式で、成果の公表を行った。 本研究の分析対象の一つである(衣装等に吊り下げる)金属製の下げ飾りについては、平成26年度の調査において、アムール川下流域のボゴロツコエ村、ブラワー村、ニコラエフスク・ナ・アムーレ市においても、サハリンやハバロフスク市に所在するものと同系統のものが確認され、アムール川下流域からサハリンにかけての広範な範囲における物の移動、交易の実態が示唆された。平成27年度に翻訳を行ったロシア語文献(Н.А.Мамчева「Нивхские подвески」)においても、中国人や満洲人を媒介とした交易の様子、アムール川下流域の諸民族自身による再鋳造による下げ飾りの製造の事実が指摘されており、調査の成果を裏付けるものとなった。 もう一つの分析対象である中国製絹織物については、平成26年度の調査において、赤地・紺地牡丹文の切れを発見した。これを今年度、関連する文献や国内所蔵資料と比較検討したところ、非常によく似た切れが「蝦夷錦」として日本国内の軸物の軸装や衣装の一部に縫い合わされていることがわかった。こうした研究の成果は、研究代表者の勤務先である北海道博物館の特別展「夷酋列像-蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」の展示図録の解説文に反映させたり、クローズアップ展示「北のシルクロード-サンタン交易をさぐる」において成果の公表を行った。
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