研究課題/領域番号 |
25370756
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 雄 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50416559)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 雪舟等楊 / 和漢 / 禅宗 / 筆法 / 仏法 / 遣明船 / 勘合貿易 / 日明関係 |
研究実績の概要 |
3年度目にあたる今年度は、室町時代における和漢の転換や異同等を論ずるべく、雪舟等楊を主たる素材に研究を行なった。当初の研究計画によれば、南北朝後期~室町初期にさかのぼって議論を展開すべきであったが、台湾(中華民国)中央研究院のプロジェクト「東亜的共相与殊相」(東アジアにおける文化意象の共通点・相違点)に関係することにより(校務の都合で今年度の当該シンポジウムには不参加で、論攷のみ提出)、美術史的な観点からの検討が必要となった。和漢の異同や翻訳、変容を論ずるに当たって、雪舟およびその作品が最適な素材の一つであることは否定すべくもなかろう。また、自身のこれまでの日明関係史研究を衍用することにより、過去の美術史研究とは異なる側面を解明できることが判明した。具体的には、雪舟にまつわる文献史料を丁寧に読み直すことによって、従来よりも雪舟の禅僧的属性の強固さが明らかになった。一見、和漢の転換が絵画の領域で行なわれていたと考えられがちだが、実は「筆法=仏法」の論理のもと、むしろ絵画表現の精神的な深層部分において、「和漢の間で変わらない」「和漢をまたいで共有される」ことが強調されていたのである(これは近く「雪舟入明再考」として中央研究院の報告書に掲載予定)。 また、今年度は、日明関係・勘合貿易に関する共編著の制作にも注力した(村井章介・橋本雄ほか編『日明関係史研究入門――アジアのなかの遣明船』勉誠出版、2015年)。かつて行なった科研費共同研究「前近代東アジアの外交と異文化接触」を承けて、多くの美術史家・考古学者にも呼びかけて編んだ、学際的研究の成果であり、現段階の研究の水準を明示できたと自負する。おもに通史や外交儀礼の箇所を担当し、「儀礼」をめぐる移入・翻訳・複合の諸相を分析・紹介するように努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定外の素材である室町中後期の画僧雪舟等楊を扱うことになったが、本研究課題(和漢の複合論)と密接に関わる内容であるどころか、むしろ研究の進展により素材が変動して発展してきた側面が強いと判断されるため。(すでに前年度の「今後の研究の推進方策」で予告していた通りの状況となり、その意味では順調に研究成果が得られたと言える。)
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、足利尊氏から義持にかけての時代に関する政治・外交史を深化させていきたい。とりわけ、足利義満が執心した丹波・若狭地方や伊勢神功、洛北~西山嵯峨地域における真言・禅に関する史蹟などの検討が中心となるだろう。そこには、和漢の文脈が交錯し、伝統や正統が何かというきわめて政治的な問題群が横溢しているからである。その際、当時の日記・古文書類はもちろんのこと、室町初期の夢窓疎石『夢中問答』や当該期禅林社会に広汎な影響を有した維摩居士伝説・維摩経など、禅宗関係の基本文献の読み直しが必要となってくると思われる。
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