研究課題/領域番号 |
25370758
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
荻野 富士夫 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30152408)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北洋漁業 / カムチャッカ / 日魯漁業 / 小林多喜二 / 蟹工船 / 駆逐艦 / 権益 / 赤化 |
研究概要 |
「北洋」と呼ばれる地域は、日露戦争により日本がロシアから獲得した漁業権益の舞台として、とくに1920年代以降、大きな意味をもっていく。蟹・サケマスの工船漁業の急速な拡充の結果、ソ連との競合・対立が激しくなり、「北洋」は日本の「生命線」と喧伝され、もう一つの「北進論」の様相を呈した。本研究では「北洋漁業」を中心に据えて、工船漁業の発達と漁業労働者という社会経済史的観点から、海軍艦船の警備活動とカムャッカ方面への進攻を想定した軍事史的観点から、日ソ基本条約・漁業条約の締結や改訂交渉という外交史の観点から、「赤化宣伝」防止・防諜にかかわる治安の観点などから総合的な考察を試みる。 本年度は、小林多喜二の小説『蟹工船』を草稿ノートなどの再点検を通して、そこで描かれた「北洋漁業」像の解明から着手した。この「多喜二の戦争観・軍隊観と北洋漁業」は、全体の序論となる。 合わせて「北洋漁業」関係の史料収集に努めた。国会図書館・防衛省防衛研究所図書館のほか、東京海洋大学図書館では「北洋漁業」関係の雑誌の調査により、日露・日ソ間の国交や漁業条約をめぐる外交交渉や露領漁区での操業や工船漁業の進展がもたらした、経営状況を概観できるようになった。また、函館市立中央図書館・函館市博物館の調査により、日魯漁業会社関係の諸史料に遭遇した。東北地方からの漁夫・雑夫の出稼ぎについては、新潟市立歴史博物館・秋田県公文書館の所蔵史料により、具体的な募集状況や労働条件・待遇などが分ってきた。 本研究申請の際に構想した「「満蒙権益」を軸に日本の対外膨張が国策化され、十五年戦争に突入していくことと並行して、……もう一つの「北進論」が、経済的権益と軍事的意図のもとに推進されていたことの解明」の重要性について、さらに確信が強まった。 カムチャッカ半島のペトロパブリフスク市を訪問し、「北洋」の空気に触れたことも収穫だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小林多喜二『蟹工船』の全体的な構造から細部に書き込まれたエピソードを仔細に検討し、「帝国軍隊――財閥――国際関係――労働者」という構想の意味を考察し、秋田の比較文学研究会などで発表した。そこでは、蟹工船の労働が「殖民地、未開地に於ける搾取の典型的なもの」であり、その漁夫・雑夫を送出する東北・北海道の社会経済状況を背景にうつしだすことにも言及した。 アジア歴史資料センターを活用し、外交史料館・防衛研究所図書館の「北洋漁業」関係史料の収集と読み込みを本格化した。膨大なため、まず1920年代以前に集中することにし、漁業条約の締結・改訂をめぐる日露・日ソの外交、権益擁護と軍事上の調査を任務とする海軍艦船の警備活動という軍事面に注目している。 『読売新聞』・『朝日新聞』のデーターベースから「北洋漁業」関連の記事を検索・閲覧し、外交・経済面だけにとどまらず、「北洋漁業」が国民にどのようにイメージされているのかの検討を進めている。 「北洋漁業」の策源地である函館と新潟を2度訪ね、図書館・博物館の調査を通じて、日魯漁業を中心とする経営・労働状況に関する史料をかなり大量に収集することができた。まだ、それらを十分に検討するに至っていないが、当初の構想の実現に具体的な見通しが立ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
蟹についで鮭鱒の工船漁業が急拡大し、「北洋漁業」は1930年代に最盛期を迎える。その後半には北千島の漁業も重要性を増していく。そのことは、海軍による「北洋警備」をさらに活発化していく。防衛研究所図書館史料などの収集を継続し、対米・対ソの軍事的緊張が増すなかで、海軍艦船の警備活動の実態を明らかにすることに努める。 漁夫・雑夫の出稼ぎについては、北海道労働資料センター所蔵の「職安文庫」中に関係史料が存在することがわかったので、早急に収集することにしたい。函館・新潟関係のものを含め、東北および北海道の農村部からの出稼ぎの実態の解明を急ぎたい。募集や斡旋の方式、待遇・労働条件、道・県当局の指導・統制などが焦点となる。合わせて、北洋の漁区・工船上での労働と生活実態なども明らかにしたい。 ペトロパブリフスク訪問についで、サントペテルブルクのロシア国立歴史文書館・ロシア国立海軍文書館、モスクワのロシア連邦外交政策公文書館・ロシア国立軍事公文書館などを訪問し、「北洋漁業」関係の史料収集を試みる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ロシアおよびソ連側の「北洋漁業」に関する日本関係の史料群が、サントペテルブルクのロシア国立歴史博物館・国立海軍公文書館、モスクワのロシア連邦外交政策公文書館・国立軍事公文書館などに所蔵されていることが判明したので、それらを閲覧・収集し、日本側の外交・軍事関係史料と対応させることで、より本主題の立体的な把握に努めたい。 上記のサントペテルブルクのロシア国立歴史博物館・国立海軍公文書館、モスクワのロシア連邦外交政策公文書館・国立軍事公文書館などの調査を8月ないし9月に実施する予定である。その準備として、日露・日ソ関係に詳しい研究者に、さらに詳しい関係史料の所蔵状況、入館・閲覧の手続きについて、教示を願うことにしたい。
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