本科研の最終年度に当たる平成27年度は、平成27年10月に北海道大学において、本科研メンバーとゲストスピーカーによりシンポジウム「漆器とアイヌの社会・文化」を開催したことが最大の成果である。まず浅倉と研究分担者の谷本晃久による問題提起の後、漆芸家で人間国宝の室瀬和美氏による講演「北海道から発信する漆ー今につながる漆文化ー」をテーマに基調講演を頂いた。その後、連携研究者の古原敏弘(元北海道アイヌ民族研究センター)、藪中剛司(新ひだか町博物館・図書館)、小林幸雄(元北海道開拓記念館)、清水香(東京大学)、東俊佑(北海道博物館)が研究成果を報告し、さらにゲストとして、宮腰哲雄(明治大学)、本多貴之(同前)が、アイヌ漆器の科学分析の成果について報告を行った。古原敏弘は、厖大な報告書としてまとめ上げた『アイヌ民族に伝わる漆器の調査データ』に記載された博物館現有の漆器と古文書に記載された漆器とが一致する複数の事例を示し、また藪中剛司は、特定の文様がある奉酒箸(イクパスイ)が同一の規格てであることを報告し た。これは、従来アイヌにより製作されたと考えられて来た祭器が、和人社会で生産されていた ことを示すもので、アイヌの精神文化にも関わる、極めて興味深い報告であった。また東俊佑は、サハリン(樺太)の大福帳を分析し、北海道内と 比較して、アイヌに手厚い手当が行われていたことを明らかにした。さらに、代表者及び各研究分担者・連携研究者は、それぞれの研究テーマによるアイヌ漆器に関する研究を推進した。
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