これまでの3か年で調査対象にできていなかった石川県(能登)、千葉県(房総半島)、それに沖縄県について、県立図書館・県立博物館や文書館、現地漁村の関係機関を対象に調査を行い、全国的な紀伊半島海民の動向や、海女など潜水漁業の分布についての分析・検討を行った。同時に、三重県内の志摩地方を中心に漁村文書の詳細調査を重ね、三重県史編さん班、三重県総合博物館、海の博物館、志摩市歴史民俗資料館などの協力を得て情報を蓄積した。 これらの調査に基づく研究成果として、江戸時代に広域的・多様な活動を展開した鳥羽志摩の海女に関する史料を「近世志摩海女に関する基礎史料集」として集約・編さんし、『三重大史学』17(2017年3月)に発表した。正確な翻刻文と共に解説文、関連論文なども紹介したもので、現段階の志摩海女に関する重要な史料を網羅できたと自負している。 また、昨年度に発表した「近代志摩海女の朝鮮出漁とその影響」(『三重大史学』16)の内容を深めて、2017年3月に志摩市磯部生涯学習センターで開催されたシンポジウム(「先志摩の魅力を一緒にしゃべろうや~人と自然、今と昔~」)において「先志摩海女が迎えた近代~朝鮮出漁と漁業専業化」と題して報告し、質疑応答及び関係者と議論を行った。朝鮮出漁を契機として、海女を中心とする漁民らの「漁業専業化」と表現されたような生業形態の変化が生じ、一時的に収入が増加したものの、漁業以外の生業が衰退し、また商業資本家に雇用され漁獲のみを行う関係に陥ったことを明らかにした。近世段階では出稼ぎ海女漁を含め小規模の多様な生業の組み合わせによって成り立っていた志摩の海女漁が、近代以降に生産規模は拡大させつつも、単純な生産構造に変化したことを論じた。このほか、女性史の観点からの課題や、文学作品等に登場する海女の問題などを含め、論文集及び一般書をまとめる準備を進めている。
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