研究課題/領域番号 |
25370769
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩崎 奈緒子 京都大学, 総合博物館, 教授 (80303759)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 世界認識 / ヨーロッパ / ロシア / 蝦夷地 / 鎖国 / 国家意識 / 国体論 |
研究概要 |
本研究は、「鎖国」をヨーロッパに対する外交体制として幕府が採用する歴史段階を確定し、「鎖国」体制の特質を明らかにしようとするものである。研究は、(1)「鎖国」が対外政策として採用される歴史段階と、(2)「鎖国論」の「鎖国」政策への影響という二つのテーマで進めることとした。 本年度は、(1)の研究を主に進めた。具体的には、享和3年(1803)に成立した山村昌永の「訂正増訳采覧異言」を素材に、約80年前に新井白石が記述した世界観との違いを検証し、昌永が、日本で初めてヨーロッパという一つの勢力として提示し、世界がヨーロッパに席巻されつつあることを示したことが明らかになった。 こうした世界認識の転換の意義について検証すべく、幕府の蝦夷地政策を含む外交関係資料を調査・研究し、昌永の提示した世界認識が幕府の中枢部を中心に一定の広がりをもって受け入れられた結果、外交・国家意識・蝦夷地認識の三つの領域に、前代とは大きく異なる変化が生じたことを解明した。すなわち、寛政期の対ラクスマン外交において示した通商容認の方針を、文化期の対レザノフ外交では転換させ、「鎖国」政策を採用した契機が、迫り来るヨーロッパ勢力が念頭にあったこと、世界への理解の深化が一方で日本とは何かという意識を深め、外国から支配されたことのない日本という独自性が発見されるにいたったこと、植民地を拡大し繁栄するヨーロッパにならい、周縁部たる蝦夷地を囲い込もうとする視角が生まれ、実現されたことを明らかにした。 上記の成果は、岩波講座『日本歴史』で発表する予定である。 (2)の研究については、大英図書館と松浦史料博物館において、基礎的調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「鎖国」をヨーロッパに対する外交体制として幕府が採用する歴史段階を確定し、「鎖国」体制の特質を明らかにすることを課題としているが、本年度の研究により、ヨーロッパを一つの勢力としてとらえる時期を確定し、それが、レザノフへの対応に影響を与えていることを解明できた。さらに、幕府が「鎖国」を採用した契機が、実は、蝦夷地に植民地主義的なまなざしを向ける契機でもあり、同時に、国体論を生み出したことを解明できたことは、近世後期の研究を画する成果であったと考える。 (2)の課題が基礎的調査の段階にとどまったことは反省点である。ただ、(1)の課題に関して2年目に計画していた研究を初年度に先取りする形で進めたので、次年度は、(2)に注力することにより、さらなる深化をはかれるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)の課題の研究を進める中で、近世後期の異国船打ち払いの問題が、ロシア認識、世界認識の変化の反作用という側面があったことがわかってきた。異国船打ち払いは、「鎖国」政策を支えた重要な対外姿勢であり、当初の計画を変更し、次年度はこの問題の検証を進めることとする。 (2)の課題については、松浦史料博物館の松浦静山の史料調査が大きな眼目であったが、本年度の基礎調査の結果、史料が一部未整理であることが判明した。そこで次年度は、新史料の発掘を期してその整理を重点的に進め、最終年度の研究の深化を期したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度最終でおこなった調査の際の旅費の見積もりを誤り、次年度の使用額が生じてしまった。 当初の計画よりも、次年度は、松浦史料博物館における調査日数が増え、かつ、補助者も必要になってくるため、それにより、使用する計画である。
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