研究課題/領域番号 |
25370771
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市 大樹 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00343004)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 黎明期の木簡 / 過書木簡 / 文書の機能 / 口頭伝達 / 紙と木の使い分け / 朝鮮半島 / 天聖令 |
研究実績の概要 |
本研究は、東アジア古代文書論の再構築を最終目標として、日本古代文書論の再構築に取り組むものである。この点を強く意識しながら、日本における飛鳥時代から平安時代にいたる行政文書に焦点を定めて、<文書の機能><紙と木の使い分け><文書伝達と口頭伝達との関係>に特に注意を払いながら、幅広く史料収集・調査をおこない、従来の文書様式論にかわる新たな枠組みを構築することにつとめた。 本研究を遂行するにあたっては、平川南代表「古代における文字文化形成過程の総合的研究」(基盤研究A)、鷹取佑司代表「古代中世東アジアの関所と交通政策」(基盤研究A)などの共同研究に参画することによって、さまざまな研究分野の研究者と議論することができた。そうした研究交流を通じて、朝鮮半島からの強力な影響のもと日本古代木簡が誕生する過程を解き明かしたり、中国北宋時代にまとめられた天聖令との比較という視点から、日本の過所木簡の性格や駅伝制度の特徴に迫る研究論文を発表することができた。 なお、こうした研究に関わって、国立歴史民俗博物館の国際企画展示「文字がつなぐ―古代の日本列島と朝鮮半島―」(2014年10月15日~12月14日)に参画し、展示図録の分担執筆もおこなった。また、2012年に公刊した単著『飛鳥の木簡』が韓国古代史の研究者の目にとまり、韓国語に翻訳されて出版された。 その一方で、日本各地の木簡・墨書土器などの実物調査にもつとめた。その研究の成果の一端は、「出土文字資料からみた古代の駅家」の論文にまとめた。さらに、隠岐国の荷札木簡についても研究を進めており、その中間報告を島根県古代文化センター主催のシンポジウムで披露した。シンポジウムの内容を記録した『しまねの古代文化』22号には、隠岐国荷札木簡の釈文の集成を掲載することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は本研究の2年目にあたるが、「研究実績の概要」にも記したように、①新たな研究視点の獲得、②複数の論文の執筆・発表、③博物館企画展示やシンポジウムにおけるの研究成果の発表、など一定の成果をあげることができたため。また、『飛鳥の木簡』の韓国語版の刊行によって、韓国の古代史研究者に対して、本研究の前提となる研究成果が発信され、今後より一層、国際共同研究を進めやすい環境を構築することができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
4年を予定している本研究は、ちょうど折り返し地点を迎えたところである。これまでの2年間で相応の研究成果をあげることができたので、引き続き気を引き締めて、さらに研究に邁進していきたい。 東アジア古代古文書論の再構築をめざす本研究は、日本古代文書のみを研究対象としていては成り立たず、中国・韓国の古代文書についても検討していかなければならない。そのために、さまざまな研究分野の研究者と共同研究をおこなう必要がある。幸いなことに、次年度以降もいくつかの共同研究に参画することが予定されており、こうした好条件をいかし、貪欲に吸収していきたい。 また、本研究では古代文書を研究対象としているが、それは紙の文書だけに限定されない。木簡・墨書土器・漆紙文書・金石文など、さまざまな文字資料を扱う必要がある。これらの文字資料を正確に理解するためには、出土状況・伝来過程も含めて、総合的な検討が要請される。そこで引き続いて、現物調査につとめたい。 そして重要なのが、研究成果の発信である。研究論文の公表はもちろんのこと、市民講座をはじめ、研究成果を広く発信していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費および人件費・謝金を十分に執行できなかったため、全体として7割の執行にとどまり、結果として次年度使用額が生じてしまった。旅費に繰り越しが生じた理由については、本研究とは別に参画している共同研究の調査に参加する機会を得たことにより、その経費の一部を節約できたことが大きい。また、大学以外にもさまざまな機関の公的業務に関与しており、出張するための十分な時間を確保できなかったことも、その要因のひとつとしてあげられる。一方、謝金については、仕事をお願いしていた大学院生が就職活動・修士論文執筆のために、必ずしも十分な時間がとれなかったことによる。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記のような事情があるとはいえ、全体の3割にも及ぶ次年度使用額が生じてしまった点は、大いに反省しなければならない。旅費については、実物調査は本研究にとって極めて重要な意味をもっているので、時間的制約は依然として厳しいとはいえ、公的業務の合間を縫って、精力的に調査をこなし、予算を適正に執行していきたい。謝金については、幸い本年度に博士後期課程の院生1名、博士前期課程の院生2名が入学したので、これらの院生のなかから適任者を選び出し、適正に予算を執行したいと考えている。
|