本研究は、〈文書の機能〉、〈紙と木の使い分け〉、〈文書伝達と口頭伝達との関係〉などに留意しながら、報告者の日本古代木簡研究をより一層発展させ、さらに行政文書を中心に古文書・編纂史料などと相互比較する作業を通じて、「日本古代文書論の再構築」を目指した。そして、中国・韓国の状況にも広く目配りすることによって、「東アジア古代文書論の構築」に向けての布石とすることを狙った。研究の結果、大きく次の3つの分野で成果をあげることができた。①日本古代木簡の検討。木簡の現物調査、フィールド調査などを通じて、木簡の文字面以上の情報を得ることができた。木簡の考察に際して、木簡そのものが醸し出す視覚効果にも目を向けるべきこと、木簡の実用的な側面に加えて、象徴的な側面にも着目すべきことを提言した点は特に重要と考える。②木簡とその他史料との比較研究。新出の北宋天聖令を活用した日唐令文の比較検討と、木簡・古文書などの分析を通じて、日本古代交通の法的特徴と運用実態の一端を解明した。これによって、文書伝達方法を具体的に明らかにできた。③東アジアを視野に入れた、日本古代文書論の再構築。上記の研究とリンクさせながら、国立歴史民俗博物館の国際展示「文字がつなぐ―古代の日本列島と朝鮮半島―」など各種の共同研究に参画し、朝鮮半島から日本古代木簡を考える視点を一層強めるとともに、中国木簡の研究成果も新たに吸収し、日本古代木簡を東アジア世界のなかに位置づける試みをおこなった。さらに、明治時代以来の史学史に関する検討を通じて、「古文書学から史料学へ」という研究動向の流れをたどり、今後の研究の方向性を窺うこともできた。以上の研究成果の大部分は、複数の口頭発表・論文・図書の形で公表した。図書の中には、単著『飛鳥の木簡―古代史の新たな解明―』の韓国語版(2014年)もあり、研究成果の国際発信という点で特に意義深いと考える。
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