研究課題/領域番号 |
25370773
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
海津 一朗 和歌山大学, 教育学部, 教授 (20221864)
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研究分担者 |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (00318734)
榎原 雅治 東京大学, 史料編纂所, 教授 (40160379)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 西岡虎之助 / 荘園絵図 / 絵画史料 / 民衆史研究 / 荘園 |
研究概要 |
1 和歌山大学寄託の西岡史料の調査 和歌山大学に寄託された西岡コレクションのうち、絵画史料の分を調査して、その全体構成を確認した。それについて、以下のように分類した。ア遺稿原稿類(未発表多数、残欠断片以外は整理撮影終了)、イ実物史料(写真乾板・絵図類)ウ筆写史料・メモ類(紙背文書に貴重な書簡類)エ典籍類その他。とくに近世絵図実物および写真の紙焼きと乾板については、東大の架蔵する「絵図原本25点」「絵図版本他27点」「写真類50点」と目録を用いて校合した。 2 東京大学史料編纂所の調査 黒田日出男氏の作成した「西岡虎之助氏蒐集コレクション目録」によると、東大に寄託された、西岡コレクションの内容は模写絵図126点、絵図原本25点、絵図版本他27点、写真類50点、古文書36点、その他17点から成っており、このうち予備調査で校合をすませた15点分についての属性(法量・裏打ち紙の容態・継ぎ目・西岡印の有無・軸装類型)を点検記載した。特に、「西岡印」(ふたつの楕円を交差させて下円に「にしおか」と書いた朱印)は、これまでまったく知られていなかった蔵書印で流出史料の鑑定などにも大きな力を発揮する発見である。 3 西岡「荘園制」関係論文の分析 和歌山大学寄託の西岡コレクションのうち、荘園制論・荘園絵図論にかかわる元原稿を精読して、研究史上の位置付けについて明らかにした。この読解が、今後の西岡絵画史料の分析の基盤として役立つと思われる。その成果の一部については、和歌山県立博物館の特別展図録に寄稿して公表した。 4 西岡虎之助DVDの公開興行講演による情報収集 海津一朗編『西岡虎之助 紀南への旅』は、絵画史料に対する西岡の関心が、師範学校教育における実物教育(郷土教育運動など)に由来するという仮説を提示した教育映像コンテンツである。このDVDを、和歌山県内においてを上映・講演して研究者と意見交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
達成度の遅れは、予期せぬ職場の事情(1)と西岡史学をめぐる学術論争への対応(2・3)という二つの要因にもとづく。 1 本学における新課程の立ち上げに伴い観光学研究科(博士課程)の兼担併任になるという職場事情により、集中的な東京出張が組めなくなった。そのため予定していた東京大学コレクションおよび早稲田大学西岡文庫の調査が設定できず、この方面の調査はすべて延期し、共同研究者からの情報収集に留めざるをえなくなった。 2 和歌山県教育委員会において、県立博物館の特別展で西岡コレクションと関係の深いかせだ荘展覧会を実施する計画が決定したため、和歌山大学寄託の絵画史料を貸し出す業務が重なってしまった。東京調査を延期した分、和歌山県に協力する形で西岡コレクションの分析に重点を移した。西岡関係論文の読解(研究実績の概要 3)、西岡DVDの公開講演活動(研究実績の概要 4)は、この協力作業のなかで取り組まれたものであり有益だった。だが、この負担に伴い、当初予定だった和大コレクションのデータベース化にまでは至らなかった。なお、県教委のかせだ荘開発に関する見解は、私の理解(編著『紀伊国かせだ荘』)と大きく異なっており、これに対する学術的な批判検討にも相当の時間を要せざるを得なかった。 3 西岡虎之助論の新しい提起 西洋近代史研究者の小原淳氏により、西岡と平泉澄の密接な関係を指摘する論考が2013年末に公表された。主にアジール論を手掛かりとして平泉と西岡の共通性を問う論考で、民衆史学の成立という視点から西岡を取り上げる本研究とは対極的な位置づけをもつ論考である。したがって、本研究はこれに対して一定の対応を行う必要に迫られており、絵画史料を中心ににしつつも史学史的な考察に対象を拡大する必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
1 東京大学史料編纂所「西岡虎之助蒐集コレクション」の筆写者・年代比定作業 黒田日出男氏の作成した「西岡虎之助氏蒐集コレクション目録」によると、東大に寄託された、西岡コレクションの内容は模写絵図126点、絵図原本25点、絵図版本他27点、写真類50点、古文書36点、その他17点から成っており、このうち模写絵図(影写本)を閲覧して調書をとる。属性(法量・裏打ち紙の容態・継ぎ目・西岡印の有無・軸装類型)を点検記載する。まず、同一の絵図摸写本が史料編纂所に伝来している30点を中心として、比較作業を行う。2つの絵図摸写本を校合するという作業は、史料編纂所の貴重書庫室の前室以外に実施できるスペースはないので所蔵先との調整を急ぐ。 2 西岡虎之助の史料採訪記録の確認 模写絵図の成立年代を考える手がかりとして、史料編纂所の所蔵する調査復命書を閲覧して西岡の調査足跡を明らかにする。 3 和歌山大学寄託史料の調査 和歌山大学に寄託された西岡コレクションのうち、絵画史料についての分析を継続してデータベース化する。とくにウのメモ類について精査し、西岡の研究・編纂活動を確認する。 4 2013年における西岡史学をめぐる論争について 史学史的な論争の論争点を踏まえて、西岡史学の位置付けを、絵画史料論との関係で再検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
予期せぬ職場の事情と「西岡史学をめぐる学術協力」への対応という二つの要因にもとづき、全体的に作業が遅滞して、特に調査出張と調査研究補助が組めなくなったため。 1 本学における新課程の立ち上げに伴い観光学研究科(博士課程)の兼担併任になるという職場事情により、集中的な東京出張が組めなくなった。そのため予定していた東京大学コレクションおよび早稲田大学西岡文庫の調査が設定できず、この方面の調査はすべて延期し、共同研究者からの情報収集に留めざるをえなくなった。 2 和歌山県教育委員会において、県立博物館の特別展で西岡コレクションと関係の深いかせだ荘展覧会を実施する計画が決定したため、和歌山大学寄託の絵画史料を貸し出す業務が重なってしまったために、和歌山県に協力する形で西岡コレクションの分析(西岡関係論文の読解、西岡DVDの公開講演活動に重点を移したため。 旅費・謝金: 前年度に延期した東京大学史料編纂所「西岡虎之助蒐集コレクション」の筆写者・年代比定作業のための調査を最優先して行い、調査旅費と指導助言謝金に使用する(同一の絵図摸写本が伝来している30点の比較作業と史料編纂所の所蔵する調査復命書の閲覧)。 人件費: 前年度、貸出事務によって遅延していた和歌山大学寄託史料・西岡コレクションのうち、絵画史料についての分析を継続してデータベース化のために、研究補助の整理と撮影を実施する。 物品費: 2013年における西岡史学をめぐる論争について 史学史的な論争の論争点を踏まえて、西岡史学の位置付けを、絵画史料論との関係で再検討するため、関係資料・書籍類を蒐集する。
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