研究課題/領域番号 |
25370775
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
竹永 三男 島根大学, 法文学部, 教授 (90144683)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 行き倒れ / 行旅病人 / 行旅死亡人 / 行旅病人及行旅死亡人取扱法 / 地域史 / 比較史 |
研究概要 |
25度の研究計画の基本は、「行き倒れ」に関係する既収集史料の再分析と新たな史料調査により3年間の研究の史料的基盤を確保することであった。 その際、東京府が、①全国最多の「行き倒れ」発生地であること、②その「行き倒れ」救護経費が全国最多額であることの2点を踏まえて、課題の焦点を東京府に絞り、東京都公文書館所蔵の東京府庁文書・東京市役所文書(東京府指定の行旅病人収容・救護機関である東京市養育院関係の文書を含む)の調査により「行き倒れ」関係文書を網羅的に収集し、その分析を行った。 この研究成果は、学術論文「『行旅病人及行旅死亡人取扱法』施行後の東京府における『行き倒れ』とその対応行政に関する基礎的検討」(『部落問題研究』207、2014年3月)として発表した。また、別途、既収集史料の分析により、「日露戦後の福島県における女性の『行旅病人』」(『女性史学』23、2013年)も発表した。 両論考により、①『帝国統計年鑑』が提示する1913-1934年の統計数値に基づき、全国の行旅病人・行旅死亡人・同救護経費を降順に一覧提示して東京府の位置を確認し、②1899年の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」と関連内務省令の制定・施行にともなって同年に制定された東京府の「行き倒れ」対応規則が、1903年、1906年と2度にわたって改訂されていることについて詳細に分析・比較して改訂内容とその背景を究明し、③『東京市公報』所載の養育院入所者事例を分析して東京府における「行き倒れ」人の特徴を、女性などの属性にも注目して明らかにし、④最後に救護費の国庫負担を求める東京府・東京市・市内各区の政府に対する陳情書を紹介・検討して問題の所在を確認し、⑤福島県内の女性「行き倒れ」人の特徴を解明した。 その結果、25年度の課題の中心部分は解明し得たが、「行き倒れ」対応の比較史研究は26年度の課題として残した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
評価の第一の理由は、3年間の研究機関の初年度である25年度の第一の課題は、「行き倒れ」とその対応行政に関する基本史料を網羅的に収集し、研究推進の史料的基盤を確保することであったが、この点については、東京都公文書館所蔵文書中の「行き倒れ」関係史料の収集を終え、今後は若干の補足調査・追加調査を残すのみなったことである。具体的には、収集した東京都公文書館所蔵文書によって、全国最多の「行き倒れ」発生地であり、「行き倒れ」の地域史的研究の主要対象地である東京府について、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」制定後の時期についての基本課題を解明して学術論文として発表し、さらに、明治維新期から「行旅病人及行旅死亡人取扱法」制定前の時期、戦時体制期の研究史料も収集できたことで、今後の核心となる史料を整備できたことである。 また、発表論文で解明した東京の「行き倒れ」実態と東京府の対応規則の変更過程は、研究代表者がこれまで福島県に即して解明してきた事実と符合するとともに、これを補う東京府固有の特徴を明確に示すものであった。このことによって、「行き倒れ」の地域史的研究の見通しをつけることができたことが第二の理由である。 さらに、日露戦後の福島県内で発生した「行き倒れ」事例について、女性「行き倒れ」人に絞り、「行き倒れ」に至る経過と職業・移動経路などを史料に基づいて具体的に解明した。このことが上記の評価を行った第三の理由である。 25年度の研究では以上のような成果を生み出したが、その一方で、比較史的研究の史料準備ができなかったことから、評価を「(2)おおむね順調に進展している。」に止めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の第一の課題は、東京府における「行き倒れ」実態とその対応行政を、明治維新期から1899年の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」制定までの時期、戦時体制期のそれぞれについて究明することである。この課題は、既に収集した東京都公文書館所蔵文書の分析によって行う。この課題については、さらに、25年度発表の『部落問題研究』207所収論文で問題の所在を提示した、「行き倒れ」救護・救護経費をめぐる政府と東京府-東京市-市内各区の関係を、地域政治史・地域行政史の問題として究明することをめざすが、そのために、「帝都東京の地域政治史」に関する先行研究を検討し、関係史料の収集を通して研究を推進することとする。 第二に、今日における世界各国の「行き倒れ」対応行政の比較研究を課題とする。この研究は、手始めに、在京の各国大使館に対する、郵送による質問調査によって関係法令の制定状況の調査を行い、続いて、対応法令を制定している諸国について、個別の調査・研究を行うという方法で進める。 第三に、現在までに進めてきた福島県、東京府に関する研究に加え、前科研研究で収集し終えた、宮城県・奈良県等の関係史料の分析を行うことで、「行き倒れ」実態と対応行政に関する各府県の分析を行い、地域史研究としても比較分析を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、所属している島根大学で保健管理センター長としての職にあり、関係業務が輻輳したため、予定していた史料調査活動の一部を残したためである。 26年度は、保健管理センター長の職が前期で終了する予定であるため、史料調査等にかける十分な時間を確保することができるので、使用には支障はなく、計画通りの研究費執行が行える。
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