研究課題/領域番号 |
25370783
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
前村 佳幸 琉球大学, 教育学部, 准教授 (10452955)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 和本の修復と料紙調査 / 竹紙を料紙とした琉球典籍 / 和本から摘出された新聞紙の保存処理と紙面調査 / 伊波普猷文庫『遺老説伝』四冊本の来歴 / 大正13年の新聞紙を利用した和本の装丁 / 『西部毎日』と地域的差異 / 『遺老説伝』の校訂 / 史料としての『遺老説伝』 |
研究概要 |
当該資料の『遺老説伝』四冊本について専門家に委託し修復を完了した。分解に立ち会うことで想定通りサンプルとして紙片を得ることができ、高知県立紙産業技術技術センターにてC染色法などによる繊維分析を行い、料紙が竹紙であることを示すエビデンスを得た。表紙や遊び紙などの素材も判明し、装丁の変化について考究することができた。当初は近代の写本と見ていたが、成立年代はより遡ると考えられる。 各葉に綴じられていた新聞紙については、裁断されているものが多いが、デジタル撮影した画像を国会図書館にて照合することで、238枚全ての紙名と日付等(大正13年1月~3月)を確定した。これにより、伊波普猷の沖縄図書館長最後の年(1924年)に沖縄で最終的な装丁が行われた蓋然性の高さを指摘できる。新聞紙に関する成果は『琉球大学教育学部紀要』85集(2014年6月)、装丁と料紙については平成26年度末の論集に掲載される予定である。 テクストについては、修復作業の間に尚家文書本『遺老説伝』の複製を入手し、校訂と読解を進めている。これにより、琉球的な中世と近世の差異、中国と日本の文化的影響と変容に関する認識に基づき、歴史学のテーマに即した論考を投稿予定である。 これまでの成果の意義の一つとして、地元紙が重視されてきた沖縄にあって、全国紙の 早版とりわけ九州版の附録の実物という、首都圏で公蔵が確認できない全国的にも希少な新聞紙資料が確認されたことは、資料に対する視座を広げると考えられる。つまり、酸性の新聞紙が綴じられている和本や冊子の存在に注目し、資料を摘出し調査することで、本資料の保存と研究だけでなく、新聞紙を通した近代史の研究や教育に寄与することも可能となる。そのような拡張性のある文献研究のスキームを実践したと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
修復や繊維分析など専門外の作業は完了した。サンプルは保管しており追試も可能である。新聞紙資料は整理・調査が済み論文が印刷中である。史料としての研究も校訂作業と並行しつつ、複数の構想を進展させており、投稿のために最終原稿作成の段階に入っているものがある。
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今後の研究の推進方策 |
尚家本『遺老説伝』テクストの校訂と下訳の推進。 『遺老説伝』を通した歴史学のテーマ研究の推進(説話における中世と近世的要素の差異の検討)。 沖縄県における原初と異なる資料(新聞紙など)を内包した典籍・冊子の分布と劣化度調査。 竹紙の特質と産地に関する認識の追究。 明治大正期の沖縄における紙の流通(竹紙の有無)。
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次年度の研究費の使用計画 |
分析用備品が未調達。さらに日程上、調査のための出張が少なくなった為。 デジタルマイクロスコープや実体顕微鏡などを調達し、研究協力者からの借用に頼ることなく独自に分析、データ化できるようにする。 連携研究者を招いて調査の範囲を広げ、当該資料の特性をより明確にしていく。 さらに、関連研究機関への出張により、専門的知見を高め研究成果に反映する。
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