研究課題/領域番号 |
25370800
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大橋 幸泰 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30386544)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 異端的宗教活動 |
研究概要 |
2013年度は、鹿児島藩におけるいわゆる隠れ念仏に関する史料調査に重点を置き、一定の成果を得ることができた。特に、鹿児島県串木野市立図書館に所蔵されている「横目勤御用向覚留」と、鹿児島県歴史資料館黎明館に寄託されている「一向宗崩日記」を全冊デジタルカメラで撮影できたのは、大きな成果である。それぞれ、前者が奥田善行院という修験者によって作成された天保5年(1834)の記録、後者が同じく愛甲隆洞という修験者によって作成された天保8年の記録である。いずれも筆者は、森田清美著『霧島山麓の隠れ念仏と修験』(岩田書院、2008年)によりその史料の存在を知った。鹿児島藩では地方(じかた)史料があまり残存していないといわれるなかで、断片的ではあるが、修験者のような地域に生きる人びとによって、鹿児島藩内の地域社会の実情を知る記録が残されているケースがあることがわかった。 これらは、鹿児島藩で厳しく禁止されていたといわれる浄土真宗の信徒が、藩内でどのような活動を展開し、藩からどのように扱われていたかを知る史料として注目される。浄土真宗禁制政策の実態を解明するうえで、たいへん貴重な史料であると確信する。いまその解読を進めている最中である。まだ結論を急ぐことはできないが、筆者がこれまで進めてきた潜伏キリシタンをめぐる問題と共通する部分があり、これらを異端的宗教活動という枠組みで捉えることの意義を一定程度明らかにできると想定される。 また、筆者は2013年度後半から1年間のサバティカル(特別研究期間)に入り、これを利用してこれまでの筆者の潜伏キリシタンをめぐる研究を、一般向けに一書にまとめる作業を行った。この成果は2014年度早々にも公表できる見込みであり、この作業のなかで、隠し念仏・隠れ念仏との対比の方法も自覚的になりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「近世日本におけるキリシタン禁制政策のもとで潜伏状態にあったキリシタンや、本山から異端視された隠し念仏などの異端的宗教活動をめぐる問題を横断的に検討し、近世人の秩序意識について明らかにしようとするもの」である。このうち、初年度の2013年度はそれ以前、筆者が蓄積してきた潜伏キリシタンをめぐる問題をふまえつつ、浄土真宗が禁止されていた鹿児島藩における、いわゆる隠れ念仏をめぐる問題の分析に入っている。浄土真宗が禁止されていない地域おける、いわゆる隠し念仏(たとえば対馬藩田代領など)の事例とともに、潜伏キリシタンをめぐる問題とを対比する作業ができる材料が揃いつつある。もちろん現段階では史料解読の途中であり、検討するべき事例はほかにもまだたくさん存在するが、研究の進み具合としてはひとまず、順調であるといってよい。 これらを通じて特に、異端的宗教活動という枠組みの確かさと、属性論という方法の有効性を自覚できたことは、大きな成果であった。前者は、秩序を維持しようとする側から見て警戒するべき宗教活動を横断的に捉える枠組みであり、後者は、一人の人間が複数の属性を併せ持つとともに、一つの組織が複数の属性を持つ人びとを併せ持っていることを意識して歴史事象を検討しようというこの方法である。これらは、禁止あるいは規制されている宗教活動を実践する人びとの営為を理解するうえで、きわめて有益であるばかりでなく、宗教問題以外の分野の歴史研究でも応用がきく方法であるという感触を得ている。2013年度の大きな成果として特筆したい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は2013年度の成果をふまえて、異端的宗教活動という枠組みと属性論という方法をいっそう確かなものとして検証していくことが求められる。2014年度は前半のサバティカル(特別研究期間)残存期間と後半の通常業務復帰の期間とに大別され、それぞれ次のような計画で研究を進める予定である。 2014年度前半はサバティカルを利用してフランス・パリに滞在し、ヨーロッパの日本史研究者と交流しながら、近世日本の宗教問題の分析方法として筆者の方法がどれほど有効か、あるいはほかに新たな分析方法があるか、などを探っていきたい。幕末のキリスト教再布教を最初に担ったのはパリ外国宣教会であったから、潜伏キリシタンをめぐる問題を検討する場合、フランス人宣教師がどのような立場にあったかを知ることも必要である。これらを通じて、キリシタンと異端的宗教活動をめぐる研究の新たな視点を獲得できればよいと考える。 一方、2014年度後半は通常業務に復帰しつつ、2015年度にかけて、異端的宗教活動と見なされる宗教活動の史料の調査・解読を継続していきたい。柱になるのは、鹿児島藩・人吉藩の隠れ念仏、対馬藩田代領の隠し念仏、浦上・天草の潜伏キリシタンであるが、他地域にも目配りして、新たな異端的宗教活動の分析も進めたいと考えている。できれば、不受不施派や三鳥派という日蓮宗の異端や富士講などの民間信仰も検討したい。 最終的に、本研究の成果を一書にまとめて公表する予定であることにも変更はない。
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