研究課題/領域番号 |
25370800
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大橋 幸泰 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30386544)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 異端的宗教活動 / 潜伏キリシタン / 隠れ念仏 / 隠し念仏 |
研究実績の概要 |
2014年度、筆者は2014年3月から9月までフランス・パリに滞在し、それ以降、東京にて研究活動を行った。半年間のパリ滞在は、2013年9月より取得した1年間の特別研究期間の後半にあたる。この間、Institut national des langues et civilisations orientales(フランス国立東洋言語文化研究院、略称INALCOイナルコ)の訪問研究員としてパリに滞在し、フランスをはじめヨーロッパの日本史・日本学研究者と交流する機会をもった。 パリでは、イナルコほかディドロ大学やコレージュ・ド・フランスなどの研究者と日本史・日本学関係の情報を交換しただけでなく、6月にはコレージュ・ド・フランスを会場に、潜伏キリシタンが江戸時代を通じてなぜ存続できたのかをテーマとした研究発表を行った。ほかに、ハイデルベルグ大学(ドイツ)・ライデン大学(オランダ)・ロンドン大学(イギリス)へも訪問し、日本学関係の図書館を見学するとともに、数名の日本史・日本学研究者と面会した。2014年5月には前年度に執筆した単著『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』が講談社より刊行されたので、ヨーロッパの日本史・日本学研究者と交流する際、本書をもとに研究の現状や方法をめぐって議論することができ、異端的宗教活動という枠組みと属性論という方法の有効性について自信を深めた。 また、パリ滞在中、コレージュ・ド・フランスの日本学図書館を利用する便宜を得て、日本から持参した隠れ念仏・隠し念仏に関する史料の解読を進め、帰国後の2014年9月以降、それをまとめる作業を行った。その成果は、2015年1月開催のシンポジウムと同年3月発行の論文に生かされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の2013年度は、浄土真宗が禁止されていた鹿児島藩における隠れ念仏(本願寺にとって保護の対象)をめぐる問題の分析に重点を置いたが、2014年度はその史料解読を進めつつ、浄土真宗が禁止されていなかった対馬藩田代領における隠し念仏(本願寺にとって非正統)との比較研究を進めた。あわせて、従来の筆者の主な研究対象であった潜伏キリシタンとの対比を念頭に、これらを総合する分析結果を発表した。それが、2015年1月11日に開催された、歴史学研究会日本近世史・ヨーロッパ中近世史部会合同シンポジウム「宗派化とキリシタン禁制」の報告「近世日本の異端的宗教活動と信仰者の宗教的属性―潜伏キリシタンと隠れ/隠し念仏―」である。この報告では、潜伏キリシタン・隠れ念仏・隠し念仏の外在的属性と内在的属性をそれぞれ検討し、近世は宗教的属性のカテゴリー化が進行した時代であると結論づけた。同時代のヨーロッパ史研究者を交えた議論を通じて、近世では宗教的属性の中身は重層的でなお曖昧性が保たれていたが、時代が下るにしたがって秩序を維持しようとする治者の側には、その曖昧性を克服して正統的宗教を規定していこうとする動向が惹起するようになる、との見通しを確かなものにすることができた。 また、2015年3月発行の『早稲田大学 教育・総合科学学術院 学術研究(人文・社会科学編)』63号に「幕末期における異端的宗教活動の摘発―対馬藩田代領「新後生」の場合―」を発表した。同論文は対馬藩田代領における隠し念仏が集団的に問題化する最後の事件を分析し、それ以前の元禄期・宝暦期の事件と比べて檀那寺や村・町役人の責任が強調されたことの意味を考えようとしたものである。研究の進行状況は順調といってよく、近いうちに研究書をまとめる作業に入りたい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2015年度は、鹿児島藩・人吉藩の隠れ念仏、対馬藩田代領の隠し念仏、浦上・天草の潜伏キリシタンの関連史料を読み進めつつ、異端的宗教活動という枠組みと属性論という方法を用いた新たな宗教史研究の可能性を目指して、これらを研究書にまとめる作業を行いたい。これまでの蓄積により、一冊の研究書にする分量の原稿はそろいつつある。 2015年7月には、京都大学人文科学研究所の共同研究「日本宗教史像の再構築」において、2014年5月に講談社から刊行した拙著『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』をもとにしたワークショップが計画されており、近世から近代移行期の新たな宗教史研究の方法が議論される見通しである。2015年1月に開催された、歴史学研究会日本近世史・ヨーロッパ中近世史部会合同シンポジウム「宗派化とキリシタン禁制」がどちらかといえば、中世から近世への展開に力点を置いた議論であったのに対して、2015年7月に開催予定のワークショップは近世から近代への展開に力点を置いた議論となりそうである。両者の論点を総合化できれば、筆者の方法論を起点に新たな近世宗教論を立ち上げることができるのではないか。 なお、当初は不受不施派や三鳥派といった日蓮宗の異端や、富士講などの民間信仰も検討の対象として視野に入っていたが、2015年度にこれらを扱うことは困難な状況である。現在おもに検討している隠れ念仏・隠し念仏に関する史料が想像以上に豊富であったということがその要因の一つであるが、時間的な制約もある。これらは2016年度以降、新たな研究テーマを立ち上げて扱うことにし、研究を発展させたい考えである。
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