研究課題/領域番号 |
25370802
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
松田 京子 南山大学, 人文学部, 教授 (20283707)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 台湾先住民 / 新女性 / 台湾日日新報 / 高等女学校 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、当初の予定どおり、1920年から1930年代にかけて植民地台湾でも登場することとなる、いわゆる「新女性」に焦点をあてて考察を行った。具体的には、主に漢民族系住民の中から登場する台湾の「新女性」が、台湾先住民女性をどのような存在としてとらえ、どのような働きかけを行ったのか、また台湾先住民女性は、当該期の都市部の社会・文化状況をどのようにとらえていたのか、また台湾在住の日本人女性と、台湾の「新女性」、台湾先住民女性は、当該期にどのような関係にあったのかという問題を解明することを課題とした。 そのために、まず台湾の「新女性」に関する資料収集を行った。具体的には、『台湾日日新報』をはじめとして、当該期に台湾で発行されていた新聞や雑誌の閲覧調査を行い、台湾の「新女性」や在台日本人女性に関連する記事を網羅的に収集し分析を進めた。また『理蕃の友』の中から、台湾先住民女性の動向に関連する記事を抽出し分析を進めた。その上で、これらの記事の分析を通じて、上記の課題に関する考察を行った。その考察結果については、当該期の日本「内地」や植民地朝鮮をはじめとした東アジアにおける「新女性」の台頭という地域的な全体動向との関連も踏まえた上で、研究論文として発表することを目指し、現在、補足的な資料調査と分析を行っている。 さらに平成27年度は、平成28年度の研究課題を見通したやや派生的な課題として、総力戦体制期の台湾において高等女学校で学んだ漢民族系住民の一人の女性に焦点をあてて、植民地統治下の日常生活、台湾における戦争、そして日本による植民地支配の終焉が、どのような具体性を伴って経験されたのかという問題についても考察を進めた。その考察結果については、台湾の学校における日本人女性教師の役割と生徒に与えた影響という点も含めて、さらに考察を深めた上で、研究論文として発表することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度、平成26年度はおおむね順調に研究を進めることができ、平成27年度も、当初の研究計画どおりの研究課題に取り組むことができた。しかし資料分析を進める過程で、植民地統治下の在台日本人女性、台湾の「新女性」、台湾先住民女性の関係性は、予想以上に複雑であり、慎重に考察をすすめる必要性を痛感したため、その考察結果をまとめるのに多くの時間を費やしている。 そのため、東アジアにおける「新女性」の台頭という地域的な全体動向との関連で当該期の台湾の状況を位置づけることが、平成27年度中には充分には達成できず、当該課題に関する論文執筆の完成を平成28年度に持ち越すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年は、まず平成27年度からの継続課題である、台湾の「新女性」の台頭という問題を台湾先住民女性、在台日本人女性との関わりから考察するという研究課題、および高等女学校で学んだ一人の女性の経験から総力戦期の台湾の社会状況を考察するという研究課題について、その考察結果を研究論文として完成させることを目指す。 その上で、当初の研究計画において平成28年度の研究課題としたテーマについても、同時進行的に取り組んでいきたい。すなわち1937年から1945年の総力戦期に焦点をあて、植民地政府が植民地住民に戦争協力を求めるあり方を、台湾先住民女性を中心に考察する。その際、労働力としての動員など具体的な政策のあり方を中心に考察していくが、一方では、例えば映画『サヨンの鐘』など戦争協力を求めるプロパガンダ作品の中で、先住民女性がどのように表象されたのかを、作品に対する日本「内地」での反響も含めて解明していく。 このような研究課題を達成するために、まず総力戦体制期の台湾先住民女性に関する資料収集を行う。総力戦体制期に台湾で発行された刊行物については、近年、復刻版の刊行が活発に行われており、これらを閲覧し台湾先住民女性関連記事を抽出する作業をまず行っていく。 しかし当該期の台湾先住民女性に対する動員のあり方については、「台湾総督府公文類纂」や『台湾警察時報』等が関連する資料となるが、これらを日本国内で網羅的に閲覧することは困難である。そこで平成28年度は、台湾への調査旅行を複数回実施し、中央研究院台湾史研究所(台湾・台北市)等にて、効率的に資料収集を行う予定である。 また、総力戦体制期のプロパガンダ作品の中の台湾先住民女性像と、それへの日本「内地」の反響については、国立国会図書館等にて、当該期に日本「内地」で発行されていた映画雑誌や大衆雑誌などを網羅的に閲覧し、関係記事の収集を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、平成27年度中に、主に日本国内在住の研究者を招いて、台湾女性史に関するシンポジウムを開催する予定であったが、研究発表者、コメンテーターの人選と日程調整が難航し、結果的に平成27年度中の開催を見送ることとなった。そのため、旅費および謝金に関する当該予算に余りが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度中に、総力戦体制期に関する資料調査のために台湾への複数回の調査旅行、また東アジアにおける「新女性」の台頭という地域的な全体動向を把握するために韓国への調査旅行を計画しており、次年度使用額については、その旅費に充当する予定である。 また植民地統治期の台湾で発行された刊行物については、近年、復刻版の刊行が集中的に行われており、その一部はすでに購入済みで備品として備わっているが、まだ未購入のものもあるため、本研究課題に関連の深い復刻版資料集の購入費用としても使用する予定である。
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