氷上郡域を中心として収集した考古・古代史料の分析に基づき、氷上郡に関する各郷の歴史的・自然的環境を、現地でのフィールドワークや聞き取り調査や、丹波市内(旧氷上郡域)の中世から近代にかけての地域遺産調査をふまえ明らかにすることができた。地域遺産を古代地域史研究に反映させる具体的な方策の事例として、中・近世など後世の資料であることによる限界性も留意しつつ、古代的要素の抽出方法や、既知の古代文献文字資料を「郷」域の視座から新たに捉えかえす方法論を検討することができた。とりわけ、条里の復元、②古代山陰道と丹後道の復元、③土地利用の復元に注目し、氷上郡域の人々と自然との関わりについて研究をおこなった。また、郷域の研究に際しては、比較的史料に恵まれている播磨や摂津の事例も参照し、方法論の補強を試みた。 以上により、古代国家や王権にとっての氷上郡の政治的・自然地理的「場」に着目し、氷上郡域を中心とした「村」「里(郷)」「郡」や隣国への空間認識と地域間交通の諸相、人々の再生産の状況を解明を試みた。地域遺産を活用することで、既知の古代文献文字資料を地域の視座、とりわけ「郷」域から新たに捉えかえし、地域社会の多様性や特性を追究する新たな古代地域史研究の手法を提示することができた。
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