日本の中世・近世寺社内において作成された古記録がどのような経緯や事由でもって成立し、現代にまで伝来するにいたったのか、その歴史的な実態と意義を解明するため、本研究では、京都八坂神社(祇園社)に所蔵される古文書・古記録の調査を全期間をとおして実施したことがもっとも大きな実績である。また、その調査の結果、現在、八坂神社に所蔵される古文書・古記録の質と量をほぼ正確に把握することができたことも実績といえる。 より具体的にいえば、本研究がおもな研究対象としてきた、近世の祇園執行行快の編纂になる古記録「祇園社記」に所収された史料のうち、「祇園会馬上料足下行記」「社中方記」「祇園社雑々記」「祇園会山鉾事」の原本にあたるものを発見、確認することができたことは大きな実績といえよう。 また、行快による「祇園社記」編纂に先立つかたちで、祇園社に伝わる史料や伝承などをまとめようとしていた動きが確認できたことも重要である。具体的には、近世前期、寛文年間に編纂されたと考えられる「祇園本縁雑事記」「祇園社本縁雑録」という二冊の古記録があらたに発見、確認されたからである。これらに記された記事の一部は、これまで、明治36年に刊行された『八坂誌』に「祇園社本縁録」としておさめられていたことが知られてきたが、今回その全貌を知ることが可能となったのである。 以上の実績をふまえたうえで、研究代表者もその一員である八坂神社文書編纂委員会の編になる史料集『新編八坂神社記録』(臨川書店)が刊行されるにいたった。
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