本研究の主要な目的は、18世紀後半以降に顕在化するイランの「近代性」への邂逅が19世紀にいかに咀嚼され解釈され、そして国内外からの支配に対抗する拠り所へと意味変容していったかを、国境の外、つまりインド西北部、オスマン帝国の帝都イスタンブル、ロシア領ザカフカ―ス、とくにアゼルバイジャンで生まれ、イランの「近代性」生成に寄与したものの、その生涯や作品が存外に知られていない3人の人物に焦点を当てることを通して解明を進めることであった。 本年度の計画は、最終年度を迎えザカフカースで活動したヘイダル・ハーンを取り上げる予定であったが、本研究課題が始まると同時に、当初予期していなかった研究科長職に就任したため公務の関係上エフォート率を下げざるを得ず、そのためイランの「近代性」に関わる広い視野から、とくに計画初年度に扱った、インド在住のイラン系ムスリムにつき俯瞰的な研究を進めることにした。研究成果としては、東北大学の広報活動の一環ではあるが、大学の研究を社会にアピールする目的で、「ムスリムたちの近代との出会い」というタイトルでイスラーム圏やイランにおけるムスリム知識人旅行記にみる愛憎半ばする西欧「近代」理解のあり方を論考として叙述した。またイタリア・フィレンツェ大学で開催された日本学をめぐる国際シンポジウムのクロージング・リマークスでは、インド在住ムスリムのイタリアにおける記述も取り上げた。 研究期間全体を通して、当初計画からすると十分な成果を伴う研究を遂行できなかったとはいえ、イランの「近代性」との邂逅と国民の創出というテーマに関わる欧米語・ペルシア語文献を収集し、研究基盤を整備し、先端的な研究には至らなかったものの、課題探究を深化させるうえで、鳥瞰的なパースペクティブを手にすることができたといえる。
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