本年度の研究実績の概要は次の通りである。七月中旬に「アレヴィー/ベクタシ研究会」を開催し、清水直美氏と安田慎氏によるイランとシリアの聖所と参詣行動に関する研究発表に引き続き、トルコとの比較考察を行った。とくに研究代表者の研究対象地域であるトルコ南東部に所在する聖所の「場所性」について、イランとの類似性を確認できたことは重要な成果であった。また、研究会の内容を報告書(佐島隆・齋藤久美子編、『聖所と参詣行動』、アレヴィー/ベクタシ研究会、2014年)にまとめた。資料収集については、夏期に三週間ほどトルコとドイツに出張した。トルコ南東部のヒザン地方での視察では、城塞・イスラーム学院・墓地・隊商宿・橋梁・教会・聖廟等の史跡に加えて、近世より現在にいたるまで存続する古い村々や夏営地を回って聞き取りを行った。史跡については画像データに取り込み、四年前の視察の際の画像データと比較し外観の変化等について検討を加えた。今回は史跡の碑文を確認することができなかったが、墓碑については二カ所で画像データを収集した。イスタンブルでは、首相府オスマン文書館で近世以降のヒザン地方の歴史に関する文書史料を収集するとともに、イスラーム研究センター等でオスマン史やトルコ南東部の地方史に関する文献を収集した。ベルリンでは、オスマン文学の研究者と墓碑の読解等について意見交換をしたほか、アナトリア南東部出身者が居住する地区で聞き取り調査等を行った。冬期にも三週間ほどトルコに出張し、主にイスタンブルの首相府オスマン文書館で近世以降のヒザン地方の歴史に関する文書史料を収集するとともに、オスマン史・ヨーロッパ人の旅行記・トルコ南東部の地方史および同地域で近年まで影響力を保持したナクシュバンディー教団の有力者に関する文献等を購入した。
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