本研究は19世紀朝鮮の周縁的社会集団について裁判史料をはじめとする諸史料から接近し、生業や組織、社会的位置などについて検討することを目的とするものである。本研究は、裁判史料・身分史関係史料の調査・収集と整理、および周縁的社会集団に関連する史料の分析が具体的内容となる。 研究最終年度であった今年度は、韓国ソウル大学校奎章閣韓国学研究院、国立中央図書館などで補足的な史料調査・収集をおこなうとともに、寺僧・屠漢に関するこれまで整理してきた所志・詞訟録といった裁判関連の文書・記録の分析を進めた。その成果として発表した「近世朝鮮の周縁的集団と史料―戸籍史料・裁判史料からの接近」(『環東アジア研究』10)は戸籍および各種裁判史料のなかで僧・屠漢などの周縁的集団がどう位置づけられているかをあらためて検討したものである。また、韓国・朝鮮文化研究会第17回研究大会での報告「朝鮮後期請願・訴訟のなかの人と集団」は、裁判史料を利用して僧・居士(傀儡)・屠漢などが公的支配にどう対応しようとしていたのかを検討した。くわえて新潟大学環東アジア研究センターとの共催でワークショップ「近世・近代環東アジア地域の周縁的集団と史料」を開催し、中国・日本・モンゴル・朝鮮の状況を比較・検討する機会をもつことができた。 研究期間をつうじての成果を簡潔にまとめれば、第一に屠漢を中心に周縁的集団の生業・組織・相互関係について具体的に明らかにすることができた。第二に屠漢・僧らが地方あるいは中央の公的権力と独自の関係を結ぶことによって課役や禁令への対応していたことを明らかにした。これらの成果は19世紀の朝鮮社会の歴史像を再構成する契機となるものであろう。また、周縁的集団研究の基礎となる各種裁判史料(請願・訴訟・報告類)・戸籍資料の史料的性格を究明することができた点も成果としてあげられる。
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