本研究は書誌調査の実施、およびその調査を通じて得られた書誌資料の整理・公開を根幹とするものであるが、本年度も台北に赴いての書誌調査・資料収集を二度実施し、50点余りの明版書原本を実査したほか、国内でも書誌研究の必要に応じた調査を延べ数日実施し、30点たらずの書誌資料を収集した。また年度の終わりには、版本同定のため北京および天津における資料収集を実施した。こうして得られた書誌は、研究期間四年を通じ、台北収集分が200点余、国内収集分が約160点、両者を合わせて約360点にのぼり、かつその質は極めて高いものとなっている。というのも台北所見分の書誌は、基本的にはすべて国内に蔵本がないもので、しかもいずれも出版史ないし出版文化史研究にとって史料的価値があり、同時に文物的価値もはなはだ高いものばかりだし、国内調査分はというと、こちらは国外に伝本のないものが多く、国内の学界にも詳しくは知られていないものが多いからである。 上記の調査を通じて得られた書誌は、所見明版書録という形で公表を図る予定であるが、本研究期間中にはそのうち最も価値の高い台北所見善本の一部分を「選録」として順次発表し、本年度の集部をもって「選録」としては一応の完結を見た。なお「選録」を通じて公表しえた書誌は、紙幅の関係からわずかに100余部でしかないが、所見録稿として整理、著録を終えた書誌は、この四年を通じて約450点を数えており、台北所見分については、なるべく早く「所見明版書録(台北篇)」として公表する予定である。また本年度は書誌の整理、目録化に注力したため、「選録」以外の論文等は発表しえなかったが、「選録」は一種の題跋集でもあり、その内容には実物に即した「明代出版史上の転換期研究」の成果が含まれている。
|