本研究の目的は,河西回廊オアシス地域を「山地―水系―オアシス」の単位でとらえ,当該地域の歴史的構造を解明することであった.主な研究材料としては当該地域で発見された出土文字資料を用い,さらに現地調査の成果を取り入れることを目指した.研究対象とする時期は,研究材料の豊富な9~13世紀前後を中心とし,河西回廊の地域全体の状況に目を配りつつ,中央ユーラシアの他の地域にも応用可能なモデルを構築することを目標とした. この目的を達成するために,国内外の出土文字資料の調査と中国での現地調査とを行った.まず,国内外で敦煌文献を中心に出土文字資料の調査を行った.国外では,ロシア・東方文献研究所ならびに,中国・国家図書館において,敦煌文献とカラホト文献の調査を行った.国内では,大阪・杏雨書屋の敦煌文献を調査した. 次に,中国での現地調査としては,河西回廊地域の環境・景観調査と遺跡調査とを行った.環境・景観調査では,水系沿いに山地からオアシスまで一貫した観察を行った.同時に水系沿いの城址遺跡を調査し,山地からオアシスまでの地域を一帯として把握することに努めた.あわせて,地域の信仰の場として重要な位置を占めた莫高窟・楡林窟等の石窟寺院についても,2013年と2015年に関連する銘文や図像の調査を行った. さらに,これらの調査研究の成果を検討する場として,「出土文字資料と現地調査による河西回廊オアシス地域の歴史的構造」と題するワークショップを開催した(2015年9月26日,於 大阪大学).ワークショップでは,代表者の坂尻と四人の連携研究者が報告を行い,河西回廊オアシス地域の歴史的構造を環境と地域社会,交易と文化交流,統治のあり方等の観点から検討を加えた.また,コメンテーターを中国から招聘し,聴衆も交えて議論を深めた.この議論を元に報告書を作成し,大阪大学のリポジトリにおいて無償かつ無制限に公開した.
|