研究課題/領域番号 |
25370833
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
太田 出 広島大学, 文学研究科, 准教授 (10314337)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近現代史 / 漁業 / アジア / 帝国日本 / 現地調査 / 領海 / 海権 |
研究実績の概要 |
2015年度はこれまで中国・日本・台湾等で蒐集してきた近代東アジア漁業に関する史料の読解・分析を進める一方、台湾と日本の焼津で新たな現地調査を開始した。 本研究課題でこれまでの3年間に蒐集してきた主な史料群は以下の四点に整理できる。第一に、帝国日本の漁業移民(樺太、朝鮮半島、関東州、青島、台湾、東南アジア)に関する史料群(日本側・在地側双方の史料)。第二に、近代に盛んに開催された内国博覧会や漁業万国博覧会などに見える中国の「海権」「漁権」概念の形成に関する史料群。第三に、日本・台湾・東南アジア(特にフィリピン)をめぐるカツオ・マグロ漁に関する史料群、第四に、日本国内で行われた魚食運動に関するポスター・絵葉書などである。これらの史料群は相当の量が存在するため、現在、少しずつ解読を進めているところである。その成果の第一歩として、一部を整理したうえで、2016年度に開催される東洋史研究会(京都)において報告し、雑誌『東洋史研究』に論文を発表の予定である。 このように文献史料読解を進めると同時に、新たな現地調査も開始した。まず台湾の鮪魚廟調査である。台湾の蘇澳に赴いて戦後に設けられた鮪魚廟を参観し、地元民にインタビューするとともに、当地の漁会で関連史料の蒐集を行った。鮪魚廟はマグロ漁の興起・衰退と深い関係にあったと考えられ、台湾や日本などのマグロ漁を考えるうえで、重要な調査対象となりうる。鮪魚廟は高雄にも存在するという情報があるため、今後機会があれば継続調査を実施したい。 また静岡県焼津市にも赴いて郷魂祠調査を行った。焼津神社の敷地内に設置されている郷魂祠は、戦時中焼津で組織された皇道産業焼津践団がフィリピン、ボルネオ、セレベスへと遠洋漁業を行い南方焼津村を建設しようとしたことに鑑み、関係者の御霊を祀ったものである。焼津漁業資料館、焼津鰹節水産加工業協同組合で関連資料を大量に蒐集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に関係する文献史料、或いは現地調査によるインタビュー資料は極めて大量に上る。これほど大量の史料群を発掘・蒐集できたことは想像外のことであり、その点からすれば当初の計画以上に進展しているといって過言ではないが、一方で、あまりに大量に発見されたため、文献史料の読解・分析、論文の執筆がやや遅れ気味であるのが現状である。全体としてはおおむね順調であると判断していい。今後残り二年間に精力的に読解・分析を進め、三つほどの論文を発表するとともに、最終年に出版予定の近代東アジア漁業と帝国日本に関する書籍の原稿作成に取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では「近代東アジア漁業と帝国日本」と題して東アジア海域(日本、中国、朝鮮半島、台湾)を中心に帝国日本の漁業移民の展開、漁業技術の近代化、それらが他のアジア諸国の現地民に与えた影響などについて考察を加えてきた。問題は海洋という課題を扱う以上、海洋の連続性に目を向けねばならず、具体的には東アジア海域だけでなく、東南アジア海域、いわゆる北洋、さらには北米海域とのつながりまでをも視野に入れた方がより良くかつ有意義な研究成果が得られるであろうと推測される点である。2015年度のミニシンポジウムでは神長英輔氏(新潟国際情報大学)に露領(北洋)漁業について報告を行ってもらったので、今後は東南アジアや北米海域を専門とする研究者(日本のみならず欧米の研究者も含めて)を招いて討論を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年度(2016年度)に比較的大きなシンポジウムを開催するため。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年7月に11名の研究者を招聘して「近代東アジア漁業と帝国日本」に関するシンポジウムを京都大学にて開催の予定。すでに11名の研究協力者からは報告の承諾を得ている。
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