本年度は本研究課題の最終年度にあたるため、まず夏季休暇(8月9日~8月28日)を利用して台湾中央研究院近代史研究所、国史館、国立台湾大学にて『台湾水産雑誌』など漁業関係史料の最終的なチェック作業を実施した。これらのバックナンバーは台湾にしか存在しない場合も少なくなく、網羅的な収集には時間を要した。その他、近代史研究所の档案室では、日本統治期の新南群島・平田群島に関する史料を多数閲覧・ダウンロードした。これら帝国日本の時代に作成された、台湾および周辺島嶼における漁業関係の文献史料は本研究課題を通じて予想以上の量を収集できた。帰国後、鋭意整理・分析中である。今後はこれらを用いて着実に文章化を進めていき、他の研究者と共同で論文集を執筆・出版したいと考えている。 次に本研究課題では、文献史料の収集のみならず、漁業関係者へのインタビューを実施した。具体的には、章盛氏(丸海鰹節工廠)、林水土氏(元七星鰹節工廠)、胡興華氏(元漁業署長)、潘江衛氏(社寮嶋文史工作室)らに戦後台湾における鰹節工場の経営や遠洋漁業のあり方などについてインタビューを行った。中でもとりわけ大物としては辜寛敏氏(辜氏漁業公司)に面会・インタビューできたことが収穫であった。彼は戦後台湾とマーシャル諸島の外交関係において漁業を通じて極めて重要な役割を果たした人物であり、彼に対するインタビューは筆者らの長年の念願でもあった。これらの人物はいずれも戦後台湾の漁業において活躍した人びとであるが、彼らの語りの中では日本統治期の事柄にも触れられており、近代から戦後に至る東アジア漁業の変遷に一定の道筋を描くに十分な内容となっている。 最後に、本研究課題に関連してこれまでのインタビュー録として太田出・佐藤仁史・長沼さやか編『中国江南の漁民と水辺の暮らし──太湖流域社会史口述記録集3』(汲古書院、2018年)を整理・刊行できた。
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