本研究は、近代インドに消費財として活発な流通を見た幾つかの特定の軽工業製品、特に、硝子小瓶、硝子腕輪、ビーディー(在来タバコ)、燐寸(マッチ)、香水・香油を取り上げて、生産や流通などの経済的特質のみならず、流通や消費の局面で生じた政治・文化的な表象、さらに、事業家によって付随的に展開された慈善・宗教などの社会的な活動を、総合的もしくは接合的な歴史動態のなかで、明らかにしようとするものであった。 2016年度には、研究成果として、複数の論稿を発表出来た。戦前の日本から英領インドに大量に輸出されていたガラス製品、なかでも硝子製の腕輪やビーズ、そして硝子小瓶が、社会的上層や富裕層の間で一般的であった伝統的な装身品(金やサンダルオイルなど)との模造・差別化の関係性の中でそれらを消費する新興中下層の社会・経済・文化的な自立化を体現していたことを実証的に明らかにした。また、ビーディーに関しては、それが、インド人エリートや富裕層のなかで急速に普及していた輸入シガレットを代替する安価で軽便な喫煙タバコとして、20世紀初頭にインド国内原料を用いて創作され、中下層の間に、既存エリートを揶揄する文化・社会的文脈を伴って消費されたことを示唆した。 本年度には、実行委員長として日本南アジア学会の年次全国大会を開催し、そこでの共通論題“Kobe-India Historical Connectivity in the Circular Dynamics of South Asia and Indian Ocean World”を代表として実施した。特に海外から、クロード・マルコヴィッツやナイル・グリーンの諸氏を招聘して、神戸とインドを結ぶ経済・政治・宗教などの繋がりを包括的に検証する機会を得た。 このほか、インドにも研究出張を行い、ビーディーや香水関係の調査を集中的に行うことが出来た。
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