研究課題/領域番号 |
25370836
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
陳 來幸 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (00227357)
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研究分担者 |
園田 節子 兵庫県立大学, 経済学部, 教授 (60367133)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 華僑 / 台湾 / 冷戦 / 客家 / 僑務 / 国民党 / 中国共産党 / 日本 |
研究概要 |
本研究の目的は戦後日本の華僑社会に生じた構造的変化を、歴史資料に基づいて国際関係のなかで把握することである。一年目は主として台湾中央研究院近代史研究所档案館に所蔵されている外交部档案を精査することに努めた。研究代表者と分担者で手分けして日本部分と北米南米部分の調査を行った。 現地調査としては広東省梅県南口鎮に行き、20世紀に入ってから日本での活躍が顕著であった客家系華商潘氏一族の故郷に調査に入った。同時に、潘家に残る資料の発掘が進み、戦後期につながる日本華僑史における客家系の事績の一部を明らかにすることができた。国内での調査としては外務省外交資料館と国会図書館にて調査を行い、一部戦後華僑社会で活躍した老華僑に対する訪問調査を実施した。 当初は研究史上の空白期間である戦後における台湾人の問題を掘り下げる予定であったが、戦前戦中期に台頭してきた客家系が果たした南洋・香港・神戸・横浜の華商ネットワークの解明が進んだことは戦後の理解にも新たな展望を示すこととなった。客家系台湾人が、戦後直後の日本の華僑運動のなかで、左傾化を示す進歩的台湾人を中国共産党および北京政府に結び付ける重要な役割を果たしたことはある程度明らかにできていたが、今回台湾客家と大陸客家との共通の役割が確認できたと考える。 アウトプットとしては、分担者がマレーシアクアラルンプールで開催された世界華僑華人研究シンポジウムでアメリカ両大陸の華僑コミュニティと情報伝達に関する報告を行い、広東省スワトウで開催された「広東華僑と中外関係」国際シンポジウムでは、代表者と分担者がともに出席し、日本とアメリカ大陸の広東系華僑について報告を行った。また、代表者は金門島で行われた国際学会で戦後の台湾と台湾人に関する報告を行い、世界各地の研究者と交流を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来日本の華僑社会では台湾客家の活躍が広く認められ、戦後の左傾化した華僑運動において客家系の台湾人のリーダーシップが重要であった。しかしながら、概要にも示したとおり、本年度き南大学華僑華人研究院と卒業生の協力によって一年前倒しで行った広東省梅県での調査によって、戦前戦後の日本華僑を連続して総合的に捉えるに際して重要な手掛かりが得られた。意外にも戦前に広東省から香港経由で直接来日していた梅県や五華県出身の客家系華商の、時代を反映した活躍の事跡が明らかとなった。これらは戦後の華僑社会再編にとっても重要な意味をもつものと考えられる。 国際調査および研究者との交流については当初の予定通り順調に進んでいる。台湾での外交部の基礎調査により、日本関連はもちろんのこと、米国のみならず南北アメリカの華僑社会と本国の僑務の実態を俯瞰する展望が得られた。 勤務先の事情などにより、一部国内調査を行うことができなかったが、次年度に時間を確保して推進してゆきたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
広東客家地域(とくに梅県)と日本、台湾の結びつきを示すキーパーソンは丘逢甲と丘念台親子、黄遵憲だとすれば、客家地区と香港、日本、南洋の結びつきを示す重要な家族は南口鎮の潘植我一族であろう。次年度は、当初の予定どおり、華僑全体の50%を占める戦後の台湾出身者が冷戦の国共対立のなかで左傾化の求心力となりつつ北京政府へ急接近していった軌跡を追うと同時に、台湾および大陸の客家の独特な役割に焦点を充てて研究を進めてゆきたい。 戦前の日本と南洋との貿易や、香港を結節点として行われた旅行業・送金業において活性化した客家ネットワークは、1972年の日中国交正常化につながる日中貿易の再開や華僑華人地域間の貿易の再編過程においても強力に活かされたのではないか。経済統計や組織史資料等に拠り、この点について詳細に分析を加えたい。科研の別プロジェクトで交流しているインドネシア社会経済史領域の研究者からの助言を仰ぎつつ、バダビア『公案簿』の近現代部分やジャカルタ華僑史における客家系華僑関連の資料をも同時進行で分析したいと考えている。 国際比較については、予定通り分担者とともに米国調査を実施する。まずは、最初期の華僑コミュニティが存在するサンフランシスコで戦後冷戦期以降に進出した台湾人と古い広東人コミュニティの戦後に関する現地調査を行うとともに、FBI資料に存在するといわれる「華僑ファイル」の調査に着手したい。冷戦構造のなかで米国の華僑華人コミュニティが米国政府当局にどのように把握されているのかを知ることは、戦後日本の華僑社会がどのように国共両政府および日本政府に把握されていたのかを分析するに際して、有効な対比となるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
勤務先の役職等で多忙であったため、また当初訪問予定であった対象者が老齢病身等のため、一部国内調査の実施が実現できなかった。 次年度は充分に計画を立て、訪問調査を実施するとともに、25年度に出来なかった滋賀県立大学図書館での資料調査を26年度内に実施する。
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