研究課題/領域番号 |
25370837
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
菊池 秀明 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20257588)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 曾国藩 / 湘軍 / 太平天国 / 地域経営 / 投降政策 |
研究実績の概要 |
昨年度までに書きためた論文を中心に、太平天国の北伐、西征と湘軍の誕生、太平天国と湘軍の地域経営について一冊の書籍にまとめる作業を行った。とくに近年の中国における社会の変化、台湾や香港で中国政府の専制的な政治姿勢に対する異議申し立てがなされたことを背景に、「中国近代史の本当の課題は数千年来の中央集権的な王朝統治を脱構築し、地方分権あるいは自治を進めることにあった」という仮説を提起し、その過程として湘軍と太平天国の戦いと地域経営を捉える視座を提出した。また彼らが地域経営を進めるうえで、エリート層の支持が不可欠だった点に注目し、太平天国の読書人および清朝官僚に対する帰順政策について研究を進めた。その結果太平天国が読書人の参加を得られなかった理由は宗教的な排他性を背景とした報復の暴力にあり、辺境の農村出身だった太平軍将兵は都市住民の発想が理解出来なかったこと、曾国藩は太平天国が儒教文明の破壊者であると訴え、読書人を自分の陣営に引きつけようとしたこと、後期太平天国の指導者である洪仁カン、李秀成は清朝官僚や旗人に対する投降政策を進めたが、戦局を挽回出来なかったことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では12月に中国安徽省安慶で太平天国に関する学術討論会が行われる予定があり、出席してフィールドワークを行う予定であったが、近年の中国政府による厳しい言論統制の結果、学会の開催そのものが延期された。その結果支出を予定していた経費が余る形になったが、3月に台湾を訪問して研究者との交流を進めた。とくに総統選挙によって中国との関係に変化が生まれつつある台湾の訪問は、本研究の課題である中国近代史における地方分権や自治の問題を考えるうえで大きな示唆があった。また5月に中国、南京大学で行った研究報告を台北の中央研究院、台湾大学でも行い、実りある議論を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
太平天国後期の湘軍と太平天国の戦いと地域経営に重点を置いて分析を進める。まずは1856年の天京事変に至る南京周辺の戦闘と太平天国の地域支配、対外関係について分析する。長江中流域で従来通りの租税徴収策が行われたのに対して、南京では『天朝田畝制度』に記された財産共有制度が行われた。本研究ではその原因を革命ユートピアではなく、中国社会の「宗族主義」との関連でとらえ、太平天国が南京の住民を一つの巨大な宗族と考え、諸王たちによる統率を行わせたという事実を検討する。それは太平天国のキリスト教的な性格に期待した外国人には理解できないものであり、彼らの失望と反発を招いた。また天京事変後の湘軍と太平天国の地域経営については、とくに石達開の太平天国離脱について重点的な分析を行う。それまで安徽、江西で順調な地域経営を行っていた石達開が根拠地を捨てて別行動を始めたことは太平天国の失敗につながった。なぜ石達開軍は浙江、福建で地域支配を確立できず、流動戦を行う結果になったのかを分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初中国で開催予定だった太平天国に関する学会が延期となり、支出を予定していた経費を使用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
3月に台湾を訪問し、研究交流を進めて成果を得た。本年度も香港、台湾およびアメリカ訪問を予定しており、充分な使用が見込まれる。
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