研究課題/領域番号 |
25370837
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
菊池 秀明 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20257588)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太平天国 / 地域経営 / 清朝 / 湘軍 / 読書人 |
研究実績の概要 |
本年度は太平天国、湘軍の地域経営と読書人の帰順、動員政策について分析を進めた。太平天国は儒教的知識人である読書人が起こした運動であったが、その宗教的な排他性ゆえに読書人に対する帰順政策は進まなかった。曽国藩は太平天国を外来の異端的な宗教とみなし、儒教の護持をスローガンとする宗教戦争を唱えて読書人を湘軍に動員しようとした。実のところ太平天国は1854年に対儒教政策を転換し、洪仁カンはキリスト教の「赦罪」「贖罪」観念を導入して読書人に帰順を呼びかけたが、すでに太平天国が軍事的に劣勢となっていたため効果はあがらなかった。 いっぽう清朝は漢人の軍事勢力である湘軍を警戒し、曽国藩らが江西で地域経営を進めて勢力を拡大することを喜ばなかった。地方官も曽国藩と対立したが、1860年に南京周辺の清軍が壊滅すると、清朝は曽国藩を両江総督に任命し、中国経済の中心地である長江下流域の防衛と経営を湘軍に委ねざるを得なくなった。 その後太平天国の地域経営は軍事的な劣勢によって立ちゆかなくなり、逆に占領地を確保した湘軍関係者は漕米などの税制改革を進めた。従来これら地方の軍事勢力による地域経営は釐金などの付加税徴収を根拠に、恣意的かつ暴力的な「私的」統治と見なされる傾向にあったが、中央政府と一定の距離を置きながら地域の復興をめざしたという点で評価できるように思われた。19世紀後半に鮮明となる地方の自立傾向は、これら湘軍、淮軍につながる地方エリートの地域支配と不可分の関係にあったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は本研究と平行して、研究成果公開促進費の給付を受けて著書の刊行を行ったため、9月以後は校正作業などに多くの時間を費やした。とくに地図、図版の作成に手間取り、本研究課題遂行のための史料整理と読解を進める時間に限界が生まれた。
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今後の研究の推進方策 |
著書はすでに刊行されたため、今年度は本研究課題に集中して取り組むことができる。まず太平天国後期の主要舞台となる長江下流域の社会変化について、日本国内の参考史料を積極的に収集する。また中国を訪問し、太平天国が南京に進出した後の広西、広東、湖南の社会変容について研究を進める。また江南地方の動向については当時の日記史料と族譜、清朝の公文書を対照させることで、太平天国と清朝側の地域経営について実態に即した分析を進めたい。これらの作業を通じて、最終年度は19世紀後半の中国社会の変化に関する見通しを提示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果公開促進費の給付を受けて著書の刊行を行ったため。また当初予定していたアメリカでの史料収集がハーバード大学図書館による関連史料の画像送付によって訪問の必要がなくなり、支出が抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
例年よりも早めに中国を訪問し、1850~60年代の広東、広西、湖南の社会変容について、これまでに収集した史料の確認作業を現地調査も含めて行う。また上海図書館、南京の太平天国博物館などで史料の閲覧、収集を進めたい。
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