研究課題/領域番号 |
25370839
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
私市 正年 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (80177807)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナショナリズム / アルジェリア / イスラーム / 北アフリカ / ウラマー / 民衆イスラーム |
研究実績の概要 |
本年度、実施した研究の概要は以下の通りである。
(1)アントニー・D・スミスの『ネイションとエスニシティ』(名古屋大学出版会・1999)の議論を参考に、アルジェリアのナショナリズム問題の論点を以下のように整理した。政治的ナショナリズムと文化的ナショナリズムが共存していること。FLNは革命のフロントではなく、レジスタンスのフロントとして出発したこと。レジスタンスは、アルジェリア人の聖なる共同体を守る闘いであったこと。聖なる共同体はイスラームとアラビア語の文化的アイデンティティを中核としていたこと。ザーウィヤがイスラームとアラビア語の文化的・宗教的アイデンティティ形成(文化的ナショナリズム)に、重要な役割をはたしたこと。(2)アルジェリアに出張し(2014年8月~9月。17日間)、Dar al-Khalil館長のFoued Kacimi 氏の協力を得ながら、al-Ruh紙の読解と分析、およびパソコンへの打ち込み作業を行った。合わせて、資料に現れる人名や地名などの比定を行った。 (3)アルジェリア・ナショナリズム運動における宗教の役割を考察するため、ボベロ・ジャン『世界のなかのライシテ』(白水社・2014)を読み、また翻訳出版した。また、『日本・アルジェリア友好の歩み』(千倉書房・2014)の編集出版をし、ナショナリズム運動の具体的動きを整理した。(4)モロッコに出張し(2015年1月~2月。8日間。旅費は別予算)、ラバトの国立図書館にてモロッコのナショナリズム運動におけるAllal Fassiの役割について文献調査を行った。また、Abdesselam Cheddadi氏と会い、モロッコ・ナショナリズム運動について意見交換を行った。(5)al-Ruh紙の校訂刊行に向けて原稿の整理をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のような作業と分析を終え、予定通りの成果が得られたのでおおむね研究は順調である。 作業としては、本研究の基本資料であるal-Ruh紙の読解と分析を90%程度、終えた。本資料の分析から、従来のFLNおよびアルジェリア・ウラマー協会を中心としたナショナリズム運動とは異なる、草の根の活動の中から革命的なナショナリズム運動が育っていたことが明らかになった。しかも、彼らは10代後半から20代半ばの青年たちであること、ザーウィヤという民衆イスラーム的施設の青年たちであること、またザーウィヤのあるal-Hamilが、都市ではなく、首都アルジェから250km南のサハラ砂漠の入り口に位置する地方の村であったことは、ナショナリズム運動の生成発展を考える上で重要な点であろう。 青年たちがパレスティナ問題に強い関心を抱いていたことも、当時(1948年)のアラブ世界の情報がどのように広がっていたかを考える上で興味深い。さらにこの問題から、アルジェリア独立戦争が、パレスティナ問題を通じてアラブ意識とイスラーム意識を強め、イデオロギー的な強化がなされたことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿い、以下のように作業と調査を進める。 (1)al-Ruh紙の読解と分析を進めつつ、関連史料(al-Basa’irなど)の参照作業を行う。 (2)al-Ruh紙の読解を終えた部分についてパソコンへの入力作業を進める。 (3)al-Ruh紙の内容の解説と史料的意義についてまとめる作業を行う。 (4)Dar al-Khalil館長のFoued Kacimi氏を招聘し(2015年7月を予定)、al-Ruh紙の読解と分析作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
アルジェリアの出張期間が公務の都合で当初予定より短くなったため次年度に繰り越されることになった。 また入手予定の資料(shuhada mintaqa al-awras)が未刊であったため購入できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
al-Ruh紙の読解と分析を急ぐためFoued Kacimi氏を招聘する。その招聘旅費として使用する。 また、2015年度末に予定しているal-Ruh紙の出版費に充てる予定である。
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