研究課題/領域番号 |
25370839
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
私市 正年 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (80177807)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イスラーム / ナショナリズム運動 / アルジェリア / 民衆イスラーム / ザーウィヤ / スーフィー教団 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、アルジェリアの中部al-HamilにあるZawiyaの青年たちが1948年に非合法下で刊行していた手書きの新聞、al-Ruh紙の分析と、その史料の公刊である。史料の分析から得られた結論は、以下の通りである。 植民地期に途絶えることなく続けられたザーウィヤでのアラビア語教育とイスラーム教育、そしてそこで形成された生徒たちの思想は、文化的ナショナリズム運動の中で再検討されるべきではないか。Zawiya al-Hamilで育った青年たちは、アラビア語とイスラームの防衛という文化的抵抗から、やがて政治的武装闘争まで考えるようになった。文化的ナショナリズム運動という点では、ウラマー協会のイスラーム改革運動とスーフィー教団・ザーウィヤの教育活動は、同じような役割を果たしていたのであり、両者は対立的ではなく、相互補完的にとらえるべきであろう。Ruh紙の分析から明らかになる事実は、そのことを示していると言える。 平成28年度中の具体的作業は、以下の通りである。史料の解読と分析の作業はほぼ終え、平成29年3月、al-Ruh:Journal des jeunes Kacimi という書名で、フランス語の解説文を付けて出版をした(Algerie, Dar al-Khalil)。また、史料の内容に関しては、日本語に抄訳して『Jarida al-Ruh: Zawiyaの青年たちの地下新聞』と題し、上智大学「イスラーム研究センター」のワーキングペーパーとして出版をした。また、その史料の歴史的意義、とくにナショナリズム運動の再評価につながる問題については、平成29年3月27日に行われたワークショップ(「アジア・アフリカにおける諸宗教の関係の歴史と現状)で報告を行った。 なお、分析に関しては、まだ不足する点があったので、解説と研究に加筆したうえ、平成29年6月に改訂版を出版する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、アルジェリアで非合法下で刊行されていたal-Ruh紙の分析とその公刊、それに基づくアルジェリア・ナショナリズムの再検討である。al-Ruh紙のテキストを、フランス語による解説と分析を付けて、期限内に出版できたことは、当初の予定よりも早い進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年3月、al-Ruh紙の分析を終え、解説と研究を付して、テキストの全文を出版できたが、研究と分析については、まだ不十分な点があった。従って、それを修正したうえで、平成29年6月をめどに改訂版を出版する予定である。 また本研究を進めている過程で、アルジェリアには、Zawiya al-Hamilと同様に教育を主たる目的としたZawiyaが1940年代に80は存在していたことが確認できた。おそらく、それらの総合的な分析によって、アルジェリアのナショナリズム運動・独立運動へのザーウィヤの役割についての再評価、およびFLNとウラマー協会を軸としたナショナリズム運動・独立運動の研究の修正がなされるべきであろう。これらの研究課題については、平成29年度に採択された研究事業「ザーウィヤのイスラーム教育とアルジェリア独立運動へのイデオロギー的影響の研究」(基盤(c))で実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
al-Ruh紙の分析と公刊に関し、予定よりも少し早く平成29年3月末までに事業を達成できたが、解説と分析については、一部不十分な点があった。次年度(平成29年4月以降)にその加筆と修正作業を実施する必要があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年4月から5月にかけて、加筆・修正に必要な資料の収集と解説文のフランス語翻訳費用に使用する。
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