研究課題/領域番号 |
25370841
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菊地 敬夫 早稲田大学, 総合研究機構, その他(招聘研究員) (10367112)
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研究分担者 |
犬井 正男 東京工芸大学, 工学部, 名誉教授 (50125902)
佐藤 真知子 東京工芸大学, 工学部, 教授 (30226005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 祭祀 / 画像工学 / 冥界の書 / 王家の谷 / エジプト学 |
研究実績の概要 |
画像工学の領域においては、これまでの研究成果を応用しながら、「アムドゥアト書」の画像史料の編纂の基礎となる高精細大画像の作成を進めている。 壁画を撮影した画像(小画像)を接合した、中画像の照明と色の補正において、従来は、壁画撮影時のカラーチャート画像を用いて色補正を行ってきた。最初に行った東壁面では問題なかったが、南壁面、西壁面、北壁面では補正しても色が合わない画像がある。これを解決するため、同じ壁面の画像を全て同じ色補正行列を用いることを試みた。撮影時の露出が異なるため、露出を合わせるために各画像におけるチャートのグレイ画像から露出の違いを測定し、基準画像との露出の比を露出係数として算出した。これらの色補正行列と露出係数を用いて新たな色補正を行ったが、まだ色が合わない画像があり、原因を調べている。 小画像から中画像、中画像から大画像への接合においては、どうしても若干の歪みが生じる。これは撮像モデルとして用いた透視投影法に基づく現時点での手法の限界であると考えられる。したがって、接合された大画像の歪みについては、最後に補正を行うことにした。照明補正、色補正済みの画像の接合に着手し、東壁、西壁(クリーニング前とクリーニング後)の接合が完了した。東壁とクリーニング後の西壁については、良好な結果が得られている。しかし、クリーニング前の西壁については中画像段階で各部分の色、質感が異なるため、接合した部分が分かる結果となっている。 エジプト学の領域では、「アムドゥアト書」の翻字、日本語への翻訳が進捗して、理解はこれまで以上に深められた。既往の欧米諸語への翻訳においても難解とされる箇所の新解釈、また、これまでの解釈以上に適切であろう理解が得られている部分もある。この翻字・翻訳を「アムドゥアト書」の「もの」としての特質を留めつつ、画像史料として編纂し、表示する手法について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も、アメンヘテプ3世王墓の「アムドゥアト書」の画像史料の編纂とその公開に向けて、「アムドゥアト書」の高精細大画像の作成のための研究と、同書の翻字・翻訳を通した研究が継続された。 デジタル画像処理では、これまでの照明・色補正に関する研究成果を、実際にアメンヘテプ3世王墓の各壁面全体を表す、大規模な高精細画像の作成に適用していった。その段階で生じた問題点を検証し、改善している。現状では、王墓の東壁と西壁に施されている「アムドゥアト書」の高精細大画像を作成することができた。東壁に関しては、この画像とリンクして示される「アムドゥアト書」の翻字と翻訳も終了した。その結果、これらをリンクした画像史料の編纂と公開への準備という段階に至っている。西壁に記された「アムドゥアト書」は、粗訳が終わり、その精度を高める段階にある。 また、北壁、南壁においても、画像処理と翻字・翻訳という、同様な研究が進捗した。これらの壁面の大規模高精細画像の完成にむけて、それぞれの高精細大画像の作成に際して生じた問題の検証を進めている。また、これらの壁面の「アムドゥアト書」の翻字・翻訳も粗訳を終えることができた。 このように、デジタル画像処理においては、研究当初の実験的なデータを全体的に適用する際に生じる問題を改善することに時間を要している。また、「アムドゥアト書」の翻字・翻訳においても、長期にわたる研究を通して、その理解が深まったことにより、研究の初期の段階での成果を再度検証する時間が必要となった。しかし、本研究課題が拠って立つ、画像工学・エジプト学の両面において、これらの研究段階は不可欠であり、想定されるところであった。以上のことから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、アメンヘテプ3世王墓の埋葬室の「アムドゥアト書」の大規模高精細画像の完成とそれらに「アムドゥアト書」の翻字と翻訳をリンクさせた画像史料の編纂を進めていく。とりわけ先行して研究が進んでいる東壁に関しては、その成果をヴューアーを利用して公開するための検証を実施する。そのほかの壁面に関しても、順次、同様な段階に入る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表予定であったエジプト学の国際学会が今年度も開催されず、そのために旅費等が支出されなかったため生じた。また、予定していた画像処理やデータベースの作成が、次年度に行われることとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の国際学会は、次年度、開催地を変更して開催されることとなった。研究代表者は、すでに本研究の成果の一部を発表することが決まっており、そのための旅費等としての使用を計画している。さらに翌年度分の助成金と合せて、デジタル画像処理ならびにデータベース作成などに要する人件費・謝金としての支出を検討している。
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