研究課題/領域番号 |
25370857
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金澤 周作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (70337757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | チャリティ / イギリス / 国際人道支援 / 慈善 / アイルランド / ブリテン / 飢饉 |
研究実績の概要 |
本年度は、1840年代後半のアイルランドを襲ったいわゆるジャガイモ飢饉に対して、アイルランドと一国をなしながらほとんど他者にして宗主国であったブリテンの社会がどのように反応し、いかなる救済を行ったのかを検討した。従来、ブリテンは飢饉に苦悶するアイルランドにきわめて冷淡で、飢饉を自己責任とみなしたのみならず、窮状に追い討ちをかけるような政策を実施したと考えられてきた。飢饉研究に膨大な蓄積のあるアイルランド歴史学界は、基本的にブリテンを否定的にとらえてきたため、ブリテン側の救済策に、積極的な意義は認めなかったのである。 それでは、飢饉に際し、ブリテンの政府ではなく社会は何を行ったのか。本研究では、Christine Kinealyによるこの分野では初となる単著、 Charity and the Great Hunger in Ireland: The kindness of strangers (Bloomsbury: London, 2013)から多くを学びつつも、ブリテン側のチャリティ組織群の諸史料を新たに読み込んで実績を精査し、また、アイルランド・ブリテン双方のメディアにおけるチャリティの表象を分析して、かかる「実績」の実像と、それがどのように受け止められたのかを検討した。 その結果、次のことが明らかになった。ブリテン側のチャリティによる貢献は決して小さなものではなかったにもかかわらず、アイルランドでは、救済対象の飢えた貧者ではなくナショナリストたちが、そうした救済行為を底意のある偽善として糾弾したために、ブリテン側の慈善熱は一挙に冷めてしまった。こうしてアイルランドではブリテンの冷酷さが、ブリテンではアイルランドの忘恩が記憶され、相互不信の19世紀後半へとつながっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画に沿って調査・研究を遂行することができた。上述のとおり、2013年に関連する専門書が現れたことも追い風になり研究に弾みがついた。また、今回の研究成果はすでに文章化しており、公刊は27年度中になるものの、日本では初となるジャガイモ飢饉を扱った網羅的な研究論集に収録されることが決まっている。以上の理由から、研究はおおむね計画通りに進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
25年度には19世紀後半から20世紀初頭におけるイギリスのチャリティ活動の趨勢を明らかにすることによって地ならしをし、26年度には具体例の一つとしてアイルランドのジャガイモ飢饉に対する海を越えたチャリティ支援を究明した。次の2年間は、それぞれ別の具体例を扱う予定にしている。当初の研究実施計画では国際赤十字を先に調べ、その後にセーブ・ザ・チルドレンを検討するとしていたが、この順序を変えることにする。後者の方が事前の基礎調査がより進んでいるからであり、順序の変更が計画全体の成否に影響することはない。
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