最終年度にあたる平成29年度は、研究全体の総括をするために、まずは前年度に収集したセーブ・ザ・チルドレン関連の史料を読み込み、創設者エグランタイン・ジェブの活動の原動力を考察した。とりわけ晩年の私的なメモや諸所でなされた講演、それに新聞や機関誌に寄せた文章にもとづいて、第一次大戦後の時期に先駆的に国際人道支援組織を軌道に乗せるにあたっての具体的な苦労や、やりがい(のなさ)について彼女が深く懊悩していた事実を発見できたことは大きな成果である。 こうしたイギリス発の国際チャリティ組織の動向の特質を相対化するために、本年度は二つの貴重な参照点を得ることができた。一つは、明治から昭和にかけて日本仏教史の大家として史学界に君臨した辻善之助の仏教慈善と西洋チャリティへのまなざしである。辻の諸著作と同時代の日本への西洋チャリティのインパクトとを関連付けながら、後者の特性(日本にとっての異質さ)を特定することができた。二つ目は、近代ヨーロッパにおいて先駆的にトランスナショナルな慈善活動を行っていたユダヤ人の英独での実践についての新知見である。このテーマの権威であるレーゲンスブルク大学ライナー・リートケ教授を(滞在中の東京から)京都に招聘し、研究上の意見交換をしたうえで、講演会を開催したことで、ヨーロッパの中でも、また、同じトランスナショナルなチャリティにしても、国や主体によってその性質は異なること、そしてイギリスの実践はやはり独特であることを確認することができた。
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