研究課題/領域番号 |
25370866
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
青柳 かおり 大分大学, 教育福祉科学部, 准教授 (30634696)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イングランド国教会 / 海外福音伝道協会 / イギリス領植民地 / 奴隷 / 布教 |
研究実績の概要 |
イングランド国教会は現代イギリスの正式な教会であり、世界中にアングリカン・コミュニオンが存在する重要な教会である。しかし、従来のイギリス史研究では17世紀におけるピューリタン系教会の分析が中心であり、近代のイングランド国教会の活動は停滞していたと考えられている。18世紀における国教会の歴史については、イギリス・日本において研究がうすく、とりわけ海外との交流については未開拓の分野である。1701年、国教会はイギリス領アメリカ植民地における異教徒への布教を開始するため、海外福音伝道協会(SPG)を設立した。そこで本研究では、18世紀におけるSPGによるアフリカ系奴隷への布教活動について解明し、国教会の海外進出と発展を明らかにしたい。 平成27年度は、主に18世紀におけるSPGがアフリカ系奴隷への布教活動をどのように推進しようとしたのかを解明した。SPGは各アメリカ植民地へ宣教師、教理問答師、教師を派遣して白人のみならず奴隷や先住民といった異教徒にもキリスト教教育を行い、改宗させようとしていた。しかし、様々な理由で奴隷の主人が布教に反対していた。たとえば、奴隷は愚かで教育を受けることは不可能であるとか、奴隷が教育を受けると知識を持って高慢になり、怠け者の悪い奴隷になる、反乱を企てると考えられていたのである。一方、SPGはそれはまったく逆であり、野蛮で反抗的な奴隷がキリスト教徒になれば従順で主人に忠実な良い奴隷になると主張したのであった。本研究では同時代のSPG関係者の著作や説教を読解・分析した。パリのフランス国立図書館において資料調査を行い、ヨーロッパ宗教史、国教会やフランス・カトリック教会による海外布教についての文献を収集した。 研究成果については、研究会で発表するとともに学術雑誌に論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
18世紀におけるSPGの活発な海外布教活動・海外進出について、多くの一次史料に基づいて検討することが重要であるが、平成27年度は、SPG関係の聖職者のアフリカ系奴隷への布教についての一次史料や二次文献の収集・読解を進めることができた。また、プランターによる著作も収集した。特に、18世紀アメリカ植民地における奴隷への布教の困難、および国教会側による布教を推進するための対応を解明することができた。当時、一般的に奴隷が教育を受けて改宗すると高慢な悪い奴隷になると考えられていたが、SPGは奴隷が教育を受けることは可能であり、むしろキリスト教徒奴隷は従順な良い奴隷になるとして主人を説得していたことを明らかにした。研究成果としては、学会発表を行い論文を執筆した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、さらに取り上げるべき国教会の海外布教の問題が残されているので継続していく。これまで、国教会の奴隷制についての思想やその変化や、奴隷布教の推進のための方策を解明してきたが、宣教師による具体的な布教活動にも関心を持っている。また、他のヨーロッパ諸国とアフリカ系奴隷の関係にも注目したい。今後は、植民地におけるSPG宣教師や彼らを支援した国教会の活動について研究を行い、特に平成27年度はニューヨークとサウスカロライナを中心に、SPGの奴隷布教がさかんであった地域における布教活動について一次史料を用いて分析したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は本研究と関連する、科研・基盤A研究「中近世キリスト教世界の多元性とグローバル・ヒストリーへの視座」(代表者:甚野尚志 早稲田大学)の分担者を務め、研究費をいただくことができた。そのため、本科研費からの支出が予定よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は計画通りに使用し、イギリスへの出張、国内旅費、また文献購入費、消耗品購入費にあてる予定である。
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