イングランド国教会は現代イギリスの正式な教会であり、世界中にアングリカン・コミュニオンが存在する重要な教会である。しかし、従来のイギリス史研究では17世紀におけるピューリタン系教会の分析が中心であり、近代のイングランド国教会の活動は停滞していたとみなされがちである。18世紀における国教会の歴史については、イギリス・日本において研究がうすく、とりわけ海外との交流については未開拓の分野である。1701年、国教会はイギリス領アメリカ植民地における異教徒への布教を開始するため、海外福音伝道協会(SPG)を設立した。 そこで本研究では、18世紀におけるSPGによるアフリカ系奴隷への布教活動について解明し、国教会の海外進出と発展を明らかにした。平成29年度においては、18世紀全体におけるSPGの布教活動とその意義を明らかにした。ニューヨーク公共図書館において国教会の布教活動に関する史料調査を行った。また、これまでSPG宣教師の報告書・書簡およびイギリス本国、アメリカ植民地の国教会聖職者の著作を分析して、SPGの布教活動を解明してきた。当時、奴隷は人間とみなされずキリスト教化は不可能と考えられていた上に、奴隷の主人は布教に反対していた。しかし、SPGは奴隷は改宗しても自由にはなれないこと、キリスト教徒奴隷は主人にとっても有益であることを説いて布教にあたった。また、学校を建設して奴隷の教育に尽力したのである。本研究では国教会が布教を通して海外進出していたことを明らかにした。18世紀に国教会が活発に活動していたことを示し、従来の国教会の位置づけを見直すことができたと思われる。
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